古ノルド語を題材にした小説:ウォーターメソッドマン

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私が最初に古ノルド語の存在を知ったのはジョン・アーヴィングJohn Irvingという作家の『ウォーターメソッドマン』The Water-Method Manという小説によってでした。このアメリカの作家は『ガープの世界』The World According to Garpや『ホテル・ニューハンプシャー』The Hotel New Hampshireといった有名な作品を書いていますが『ウォーターメソッドマン』は初期の作品であまり知られていません。

作品の解説はおそらく他でたくさん語られていることと思います。ここでは古ノルド語に関することを書きます。

古ノルド語について(1)
古ノルド語について(2)
古ノルド語

作中での古ノルド語の役割

主人公トランパーはニューヨークで中途半端な暮らしをしています。物語では時間は前後し、過去の話が挿入され、本人の視点であったり、他の視点であったり、手紙の引用であったりと断片的なものが次々と提示されていきます。トランパーは大学にいた時に「古代低地ノルウェー語」で書かれた「アクセルトとグンネル」Akthelt and Gunnelという叙事詩の翻訳をしていました。今回読んだ版では「古代低地ノルウェー語」となっていましたが昔の翻訳は「古代低地ノルド語」だったと記憶しています。

この「古代低地ノルド語」Old Low Norseというのは仮想の言語で(本当に実在していたら教えてください)実在した「古東ノルド語」Old East Norseと「古西ノルド語」Old West Norseの間に位置する特に重要でない古代言語とされています。低地ドイツ語Low Germanという言語は実在しましたのでこのあたりから着想したのでしょう。

また「アクセルトとグンネル」という物語もゲルマン人の中世の恋愛物語をもじったものではないかと(こちらも実在したら教えてください)思われます。こちらも古代低地ノルド語を代表する唯一の、またあまりできの良くない叙事詩とされています。この物語のプロットは主人公の行動と作中で重ね合わせられていきます。主人公も叙事詩を英訳するにあたり単語を捏造したり意図的に翻訳に変更を加えたりしています。

英語とドイツ語と古ノルド語

オリジナルは英語ですが作中にはドイツ語とそれらしい古ノルド語の単語が頻繁に出てきます。英語はたくさんのフランス語が入ってきたとはいえ元々はゲルマン系の言語でした。ドイツ語とも近く古ノルド語は先祖の親戚筋のような言語です。

主人公はドイツ語も話せ、ドイツ語を利用して古代ノルド語の研究をしています。この英語視点で見た時の古ノルド語の位置関係はこの小説で描かれている通りだと思います。アメリカ東海岸とドイツ・オーストリアのドイツ語圏、北欧の地理的な位置関係もまたこれを補強しています。

残念なことに邦訳ではほとんどの単語がカタカナにされてしまっているため元の単語の魅力が薄れてしまっています。ドイツ語訛りの英語もおかしなカタカナ表記の日本語に変えられたりしていることからも想像がつくと思います。

英語もドイツ語も古ノルド語もローマ字表記であるので英語話者は意味がわからなくてもとりあえず音を楽しむことができます。また所々のドイツ語や古ノルド語の単語については英語話者が思い当たるものもあることでしょう。このような近親の複数言語を巻き込んだ作品を近親じゃない日本語で眺めると少し捉えにくいところがあるのは仕方のないことでしょう。

アーヴィングの作品はメタファーに富む非常に興味深いものが多いです。彼の他の作品と同じく可能であれば英語オリジナルで挑戦したい作品です。

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