巫女の予言(26)トールの怒り

スポンサーリンク

第26スタンザは雷神トールが不正を聞いて怒り出す場面です。話の流れからすると前のスタンザの良くない行いについて起こっているのだと思われます。ここでの話の順番は「王の写本」という写本の順序に習っていますがHauksbókという他の写本ではこれら25と26のスタンザはもっと前に出てきます。そこでは砦の外壁の受発注になにか不正がありそれを聞いたトールが怒り出したとなっています。

テキスト

Þórr einn þar vá / þrunginn móði,

トールはそこで立ち上がった 激しい怒りに駆られ

hann sjaldan sitr / er hann slíkt um fregn;

彼はおとなしく座っていることはない そのような話を聞いたときには

á gengust eiðar, / orð ok sœri,

その誓いは果たされることはなかった その言葉もその約束も

mál öll meginlig / er á meðal fóru.

彼らの間で交わされた すべての重要な話も

Poetic Edda – Völuspá 26

Mårten Eskil Winge - Tor's Fight with the Giants - Google Art Project.jpg
By Mårten Eskil Winge3gGd_ynWqGjGfQ at Google Cultural Institute maximum zoom level, パブリック・ドメイン, Link

解説

Þórr einn þar vá / þrunginn móði,

Þórrは英語でThorと表記される北欧神話で重要な神です。þまたはthはタ行とサ行の間なのでトールともソールとも表記されます。ただSólという別な太陽の神もいてこちらはソールとしか表記できないため結果としてこの雷の神はトールと呼ばれる頻度が高いです。

einnは数詞 1の主格男性でÞórrを修飾し、Þórr einnで「トールただ一人だけが」という意味になります。 váは動詞 vega「立ち上がる」の三人称単数過去で、þarは副詞で英語のthereに相当し「その場所で」という意味になります。

þrunginnは動詞 þryngva「押す」の過去分詞主格男性単数でþórrに一致します。móðiは男性名詞 móðr「強い怒り」の与格単数でþrunginnの理由を説明しています。

hann sjaldan sitr / er hann slíkt um fregn;

sitrは動詞 sitja「座る」の三人称単数現在、hannは男性単数の代名詞、sjaldanは副詞で英語の seldomに相当し「滅多にない」の意味になります。hann sjaldan sitrは「彼は滅多に座っていない」と訳せます。

er以降は従属節でここでは「〜のときに」と続きます。fregnは動詞 fregna「聞く」の三人称単数で umは動詞の完了を表す接辞です。slíktは形容詞 slíkr「そのような」の対格中性単数ですがここでは対格の名詞がないため実体化し「そのようなことを」と訳します。前スタンザでの毒の持ち込みや巨人との取引を指していると思われます。

この行が現在形なのは実際の出来事を語っているのではなくトールの一般的な性質を語っているからです。

á gengust eiðar, / orð ok sœri,

á は否定の接辞、gengustは動詞 ganga「行く」「歩く」の三人称複数過去受動態です。eiðar、男性名詞 eiðr「誓い」の主格複数、orðは中性名詞 orð「言葉」の主格複数、 sœriも中性の複数のみの名詞 sœri「誓いの約束をする」の主格でこの3つ全てがgengustの主語になります。

受動態の動詞 geggustもこれらの主語の意味から「行かされた」ではなく「果たされた」と訳すほうがよいでしょう。

mál öll meginlig / er á meðal fóru.

málは中性名詞 mál「話」の主格複数、 öllも形容詞 allr「すべての」の主格中性複数で meginlig「大事な」も形容詞の主格中性複数でこの3つは一致します。

er以降はmálを先行詞とした関係節です。á meðal「間で」を意味する前置詞ですが後続の名詞がありません。fóruは動詞 fara「動く」「通り過ぎる」の三人称複数過去です。関係節が「話」に係っていることを考えると「何かの間で交わされた」と訳せます。

この行は名詞句で前行の4つ目の主語になります。

写本 Hauksbókの記述に従えば戦争の前の砦の外壁の建築は完成せずこれが理由でアース神族はヴァン神族に負けを喫したのだと考えられます。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。