ギリシア語名詞の第三変化形は男性名詞、女性名詞、中性名詞の全ての性の名詞が含まれます。男性名詞と女性名詞の変化は同じです。ここまでラテン語の第三変化形と共通です。
ラテン語の名詞変化:第三変化形(1)
ラテン語の名詞変化:第三変化形(2)
第三変化形の語根radicalは子音で終わるものが多いです。母音で終わるものもありますが頻度は低くなります。
第三変化形の属格単数の語尾は-οςになります。第一変化形、第二変化形は-ας, -ουだったので特徴的な点です。
またギリシア語は不規則変化の名詞を除くと第三変化形までで全てです。これはラテン語が第五変化まであることを考えるとパターン分けは少し楽です。
第三変化形の語尾の特徴
男性女性 | 中性 | ||
---|---|---|---|
単 | 主 | -ς (または無し) | 無し |
呼 | -ς(または無し) | 無し | |
対 | -ν, -α | 無し | |
属 | -ος | -ος | |
与 | -ι | -ι | |
双 | 主・対・呼 | -ε | -ε |
属・与 | -οιν | -οιν | |
複 | 主 | -ες | -α |
呼 | -ες | -α | |
対 | -ας, -νς | -α | |
属 | -ων | -ων | |
与 | -σι | -σι |
すべての性で属格与格は共通です。
諸規則
だいたい以下のような規則によってほとんどの変化形を予測できます。
主格単数の規則
1:語根が-ν, -ρ, -ςで終わる単語
語根が-ν, -ρ, -ςで終わる単語の主格と呼格の単数には語尾がつきません。
これらの子音の前の母音は男性女性名詞の主格単数でしばしば長母音となります。この場合呼格単数ではこの長母音が短母音になります。また第三変化形の形容詞では男性女性の主格単数の時には長母音でも中性の時には短母音になります。
- δαίμων(主格単数)→ δαίμον(呼格単数)
- εὐσεβής(形容詞主格男性単数)→ εὐσεβές(主格中性単数)
- πατήρ(主格単数) → πάτερ(呼格単数)
2:語根が-β, -π, -φで終わる単語
-ςがつく代わりにこの最後の子音が-ψに変化します。これはψがpsの音であることから導かれています。
- βς → bs → ps(bが無音化する) → ψ
- πς → ps → ψ
- φς → phs → ps(phが無音化する)→ ψ
- φλέψ ← φλεβ + ς
3:語根が-γ, -κ, -χで終わる単語
-ςがつく代わりにこの最後の子音が-ξに変化します。これはξがksの音であることから導かれています。
- γς → gs → ks(gが無音化する) → ξ
- κς → ks → ξ
- χς → khs → ks(khが無音化する)→ ξ
- κόραξ ← κορακ + ς
4:語根が-δ, -τ, -θで終わる単語
これらの子音が消えて-ςが代わりつきます。tsの音がsになることからこのような変化となります。
- φροντίς ← φροντιδ + ς
-τで終わる単語のうちその前がνのものは下の規則5に従います。
5:語根が-ντで終わる単語
ふた通りのパターンがあります。
(1)-ςがつくもの
-ντのかわりに-ςになります。
- πᾶς ← παντ + ς
- γίγας ← γιγαντ + ς
(2)-ςがつかないもの
-ντのうち-τのみ消えます。しばしばその前の母音は短母音から長母音になります。
- λέων ← λεοντ-
- ἑκών ← ἑκοντ-
呼格単数の規則
変化語尾は基本的にはないのですが主格単数の影響を受けて似た変化をする場合があります。
- κόραξ(主格単数) → κόραξ(呼格単数)
- φροντίς(主格単数) → φροντί(呼格単数)
- ἰχθῦς (主格単数) → ἰχθῦ(呼格単数)
属格単数の規則
変化語尾は-οςですがこれはラテン語の第三変化形の-isと近い扱いと言えます。縮約するケースでは-ωςやουςの形になる場合があります。
- φώρ(主格単数), φωρός(属格単数)
- βασιλeέως ← βασιλή + ος
- Σωκράτους ← Σωκράτε + ος
与格単数の規則
第一第二変化形ではιはᾳ, ῃ, ῳのようにサブスクリプトでしたが第三変化形では通常のιとして書かれます。
- φωρί
- ἰχθύϊ
対格単数の規則
語根が母音で終わるか子音で終わるかで語尾が変わります。
母音で終わる場合
-νをつけます。
- ἰχθῦν
- πόλιν
子音で終わる場合
-νがつけられないため代わりに-αをつけます。
- φῶρα
- κόρακα
- φροντίδα
対格複数の規則
語尾-ςを後ろにつけます。対格単数で-νで終わっている場合はvの代わりにςとなります。-αで終わっている場合は-αςになります。
- φῶρας ← φωρ + νς
- κόρακας ← κορακ + νς
- ἰχθῦς ← ἰχθυν + ς
主格複数の縮約時に-εεςを-ειςにしているケースでは対格複数も-ειςの形を取ることになります。これはこのケースが出てきたところで詳しく説明します。