ギリシア語の動詞はラテン語同様に複雑に変化します。ラテン語はフランス語やイタリア語などロマンス諸語の祖語であるため、これらの言葉との文法の対応関係が明確です。しかしギリシア語はロマンス諸語とは系統が異なるためこの対応関係が微妙にずれているので注意が必要です。
ここではギリシア語の動詞を理解する基本的な要素を見ていきます。
3つの態
態は動作の主体や対象の関係を表す文法用語で英語でvoice、フランス語でvoixと呼ばれます。
ギリシア語には3つの態があります。
- 能動態 l’actif
- 受動態 le passif
- 中動態 le moyen
古い時代には能動態と中動態のみ存在していて、受動態は中動態から派生してできました。中動態は自分自身に向けて行われる動作として理解されていますが、ロマンス諸語で言われるような直接再帰動詞 — 再帰の目的語が直接目的語である再帰動詞 — とは少し異なります。ギリシア語の中動態はその動作の目的や関心が自分自身に対して向けられていることを意味します。
- λύομαι [中動態 ] (自分のために自分自身ではないかもしれないなにかを)解放する
- ἐμαυτὸν λύω [直接目的語と能動態] (自分以外の誰かのために)自分を開放する
すべての動詞が3つの態を持っているわけではありません。動詞の中には中動態のみのものもあります。これはラテン語のデポーネント動詞(欠格動詞とも)に相当します。例えば βούλομαι「欲する」「〜したい」は中動態しかなく意味を考えると「関心が自分自身に向いている」以外に考えにくいことが分かります。
6つの法
法は表現する事実の現実らしさを表します。英語でmood、フランス語でmodeと呼ばれます。
ギリシア語には6つの法があります。前半の4つが人称に関係があり、後半2つが人称とは関係のない法です。
- 直説法 indicatif
- 命令法 impératif
- 接続法 subjonctif
- 希求法 optatif
- 不定法 infinitif
- 分詞 participe
接続法はその動作が最終的になにかを実現することを見込んでいます。以下のκελεύτῃςは接続法二人称単数現在です。
ἐὰν κελεύτῃς, ἥξω.
君が要求するのであれば私は来るだろう。
希求法は実現されていないことを望むときに使われます。また可能性を表すときにも希求法が使われます。以下のκελεύοιςとλύοιμιは共に希求法です。
τοῦτον, εἰ κελεύοις, λύοιμι ἄν.
もし君がそれを要求したら、私はそれを解放するだろう。
例文で表現するのは難しのですが、接続法と比べ希求法のほうがより非現実性が高く実現性が低い表現になります。
6つの時制
ギリシア語の時制は時制であると同時にその動作の期間や繰り返しについての違いも表します。
ギリシア語の時制は直説法で6つあり、前半の3つが第一時制、後半の3つが第二時制と呼ばれています。
- 現在 présent
- 未来 futur
- 完了 parfait
- 未完了 imparfait
- アオリスト aoriste
- 過去完了 plus-que-parfait
直説法以外では未完了と過去完了はありません。命令法と接続法には未来時制はありません。
未来とアオリストを除くと中動態と受動態の変化形は同一になります。これを中受動態 médio-passiveと呼びます。
この6つの時制の他に未来完了 futur antérieurというものもありますが使用頻度が低く通常説明されません。
後半に続きます。