アクセントについての基本的な知識を持ったところで実際にアクセントを決める規則を見ていきます。アクセントを決める規則は大きく2段階に分かれます。まず最初に単語の基本形のアクセントを判定します。基本形は動詞であれば現在形ですし、名詞であれば主格です。
次に変化に伴い必要に応じアクセントを移動させます。基本的には基本形のアクセントを保持しますがアクセントとして許容されない場合には移動させる必要が出てくるので適宜対応させます。
1. アクセントの第一規則
アクセントが決まるにあたって最初の法則があります。名詞や形容詞であれば主格のアクセントの位置はこの規則で決まります。それ以外の格のアクセントはこの第一規則で決まった主格のアクセントを元にしています。
規則1-1:以下の場合は可能な限り語頭に近い位置にアクセントを置く
a) ほとんどの中性名詞
ただし-ίονで終わる単語やζυγόνとᾠόνを除きます。
b) 短い-αで終わる名詞
c) -ξと-ψで終わる名詞
d) 主格-ις、属格-εωςで終わる名詞
e) ほとんどの形容詞
f) 固有名詞
g) 主格-ότης、属格-ότητοςで終わる女性名詞
規則1-2:ほとんどの複合語は可能な限り語頭に近い位置にアクセントを置く
元の語幹 | 複合語 |
---|---|
ὁδός | σύν-οδος |
ἀληθής | φιλαλήθης |
τακτός | ἄτακτοσ |
δόξα | ἔν-δοξος |
名詞が先頭に来ている二語の複合語の場合は二番目の語の先頭までアクセントはつきますがそれを越えて一番目の後まで遡ることはありません。
νυμο-γράφος
οἰκο-νόμος
οἰνο-χόος
規則1-3:以下の場合にはoxytone(ultimaの鋭アクセント)とする
a) 主格-άς、属格-άδοςで終わる名詞
b) 主格-ίς、属格-ίδοςで終わる名詞
ただしἔριςは除きます。
c) -εύςで終わる名詞、主格-ήν、属格-ένοςで終わる名詞
ただしἝλληνは除きます。
d) -ήρで終わる男性名詞
e) -ικόςまたは-ύςで終わる形容詞、-ήςで終わるほとんどの形容詞
ただしἥμισυςとθῆλυςは除きます。
f) 前置詞
ただしアクセントを持たないἐν、εἰς、ἐκは除きます。
規則1-4:以下の場合にはparoxytone(後ろから二番目の音節の鋭アクセント)とする
a) 長い-αで終わる名詞
ただしἀγορά「場所」、ἀγυιά「通り」、στοά「扉」、σκιά「日陰」、στρατιά「武装」、παιδιά「娯楽」は除きます。
b) 指小辞diminutive -ίσκοςがついた名詞、-τέοςで終わる動形容詞verbal adjective
2. 変化によるアクセントの移動
アクセントの第一規則で決まったアクセントの位置は格性数の変化でもなるべくその位置を保とうとします。しかし以下のような例外があります。
規則2-1:語末の音節が増えた時
properispomenon(penult上の曲アクセント)の語末の音節が一つ増えるとアクセントの位置は後ろから三番目の音節の扱いになります。後ろから三番目つまりantepenultでの曲アクセントは許容されないためその場所でproparoxytone(antepenult上の鋭アクセント)に変化します。
σῶμα → σώματος, σώμασι
規則2-2:ultimaのモーラが変化した時
ultimaが1モーラから2モーラになる時properispomenon(penult上の曲アクセント)はparoxytone(penult上の鋭アクセント)に変化します。語末の長母音は二つの短い音節であると解釈されます。このため見た目はpenultであってもantepenultの扱いとなり曲アクセントが許容されなくなります。
σῶμα → σωμάτων
一般にpenult上のアクセントは変化に伴い以下のようになります。
- ultimaが1モーラの場合は曲アクセント → properispomenon
- ultimaが2モーラの場合は鋭アクセント → paroxytone
δῆμος → δήμου
στρατιώτης → στρατιῶται(-αιは1モーラ)
ἄνθρωπος → ἀνθρώπου
規則2-3:音節縮約時のアクセント
母音が縮約する時には可能な限りもとのアクセントを保持します。例えばθύραの属格複数は語尾ωνがつきτυράωνとなりますが縮約contractionしてτυρῶνとなります。まず規則2-2が適用されαの上に鋭アクセントがつきます。さらにそれが縮約して最終的には曲アクセントに変化しています。
θύρα + ων → θυράοον → θυρόον → θυρῶν
以下も同様です。
τειχέων → τειχῶν
φιλέω → φιλῶ
一般に縮約後は2モーラの曲アクセントになりますがantepenultの場合は鋭アクセントのみ許容されるためproparoxytoneとなります。
φιλεόμεθα →φιλούμεθα
規則2-4:動詞の変化、形容詞の比較級最上級の扱い
できるだけ語頭にアクセントをつけるようにします。
λύω, λύομεν, ἔλυον, λέυκα, λῦσαι
接頭語prefixがつくような複合動詞composed verbの場合は複合前の単純動詞simple verbで置かれたアクセントを保持します。
παρεῖχον, παρέσχον, ἀπῆλθον