古代の画家アペレス(13)アレクサンドロス大王その1

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アレクサンドロス大王は数多い画家の中で特にアペレスに一番の信用をおいていました。

fuit enim et comitas illi, propter quam gratior Alexandro Magno frequenter in officinam ventitanti – nam, ut diximus, ab alio se pingi vetuerat edicto – , sed in officina imperite multa disserenti silentium comiter suadebat, rideri eum dicens a pueris, qui colores tererent.

実際のところアペレスには礼儀正しさがあった。例えば彼の作業場に足繁く通うアレクサンドロス大王 — というのも以前話したように布告によって自身の肖像画を他の画家が描くことを禁止していたためだった — に対して快さを与えていた。しかし作業場で絵画についての無知を披露していたアレクサンドロス大王に対して彼は穏やかに沈黙を勧めた、絵の具を準備している年少者たちによって笑われていることを伝えながら。

enim et「そして実際のところ」は前回は彼が憤慨する話の流れをうけています。comitas fuit illiは「礼儀正しさが彼にはあった」という意味です。主語がcomitasで「優しさ」「心地よさ」「親密さ」などの意味があります。illiは与格でアペレスに対してそれがあることを意味します。fuitは動詞 sum「〜である」の三人称単数完了です。propterは「〜の近くに」で対格を受けますがその内容はquam以下の関係節で説明されています。つまりcomitasであることの例が関係節に書かれていることになります。

関係節の中心はsilentium suadebat「沈黙を勧めた」です。主格はアペレスですが省略され代わりに主格男性単数のgratior「より快い」が記述されています。誰に対してgratiorかというと与格 Alexandro Magno「アレクサンドロス大王にとって」になります。さらに与格ventitantiで「来ている」、副詞 frequenter「しばしば」、in officinam「作業場へ」でアレクサンドロス大王がアペレスのところに頻繁に訪れていたことが説明されています。

ここで挿入部がありnam, ut diximus「というのも私たちがすでに言ったように」、ab alio「他のものによって」つまり「アペレス以外の画家によって」、不定句se pingi「彼が描かれること」、三人称単数過去完了vetuerat「禁止されていた」、奪格edicto「宣言することによって」とあります。

AlexanderTheGreat Bust.jpg
 © Andrew Dunn (3 December 2004), website: http://www.andrewdunnphoto.com/, CC 表示-継承 2.0, Link

sedと続きdisserentiは動詞 dissero「議論する」の現在能動分詞の与格男性単数でアレクサンドロス大王が議論をしていることを意味します。ただし少し説明がありin officinam 「作業場の中で」、副詞imperite「技量の足りず」「無知な様子で」、対格中性複数multa「多くのことを」とあります。大王はおそらく絵や美術について専門外であるのに多くを語っていたのでしょう。この与格、大王に対してアペレスは「沈黙を勧めた」わけです。副詞comiterは「優しく」でここで話題にされているcomitasと同じ由来の言葉です。

アペレスについての説明もあります。dicensは動詞 dico「言う」の現在能動分詞でその内容は不定句 rideri eum 「彼が笑われていること」、a pueris「少年たちによって」とあります。その少年たちはqui以下の関係節で説明があります。対格複数の男性名詞colores「色を」、tererent「細かく砕いていた」とあり、その少年たちは絵の具の原材料となる鉱石を道具を使って細かく砕く作業をしていたのでしょう。今でいうアルバイトか画家を志す弟子の少年たちが作業場にはいたことがここからわかります。プロトゲネスの作業場には老婆がいましたがおそらくこのような労働に従事している人の食事やその他の世話をしていたのでしょう。画家の作業場というのは町工場のような趣があります。

2300年あまり後の現代でも名声の衰えないアレクサンドロス大王の肖像画家に選ばれていることや、大王に対する物言いなどを見るとアペレスがどれほど信頼を得ていたかを窺わせます。これは単に画家の技術のみでは達し得ないことなのではないでしょうか。

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