ローマ字の変遷

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初期のローマ字

前の記事でローマ字の先祖を見ました。

ローマ字の先祖

こんどはローマ字そのものをみましょう。当たり前ですがローマ字は古代ローマで使われていました。英語ではLatin AlphabetまたはRoman Alphabetと呼びます。ローマ人はすぐ北にあったエトルリアの民族の使っていたアルファベットを使って自分たちの言葉を書き記すために取り入れました。初期のアルファベットは以下のものです。

A B C D E F Z H I K L M N O P Q R S T V X

現在英語で使う26文字から比べて5個ほど足りません。足りないものはG、J、U、W、Yの5つです。またZが随分前の方にあります。

ローマ字の変遷

私たちが今使っている英語のアルファベットに至るまでにはここから紆余曲折があります。その変遷を見ていきたいと思います。

Cの扱い、Gの発明、Zの消失

ギリシア文字の三つ目はガンマΓという文字でGを表しているのですがこれに相当するのがCです。でも初期のローマ字ではCはギリシア文字と同じ役割のGと本来のCとの両方の音を表していました。この用法はエトルリアの影響だと言われています。ただやはり不便だと思ったのでしょう、Cにちょっと目印をつけてGと言う文字を発明しました。またラテン語にはZの音は使われなかったため7番目の場所にあったZが欠番になりました。欠番になったのをいい事にそこにGを置くようになりました。

Kはほぼ未使用

役割の多いCとは異なりKはほとんど使われていませんでした。KALENDAEという月の特定の日を表す言葉くらいしか記録がありません。これもCと置き換え可能だったので、そこから派生した英語のカレンダーはCalendarとCが使われています。

Jの不在

Jと言う文字はそもそもギリシア文字にもありませんでした。実際に発明されたのは古代ローマが滅亡した随分あと、中世のことでした。Iは母音の「イ」を表すのと同時に子音の役目を持っていました。カナでいうヤ行の音に近いものです。本来のIと子音を区別するためにJが発明されたのでした。Jの方はラテン語の後に続くロマンス諸語でヤ行からジャ行の音に変わり現在に至ります。

古代の表記 古代の音 中世以降の表記 現代の音
IA イァ・ヤ JA ジャ
II イィ・イイ JI
IU イゥ・ユ JU ジュ
IE イェ JE ジェ
IO イォ・ヨ JO ジョ

Uの不在

Jとは逆に今では子音になっているVが古代では「ウ」として扱われていました。VもIと同じように母音の前にくると子音の役割をしました。中世には母音を表すUと子音を表すVに分かれました。古代ではワ行の音で後にヴァ行になりました。ブルガリというブランドがBVLGARIと表記するのもこの古風な表記を採用しているためです。

古代の表記 古代の音 中世以降の表記 現代の音
VA ウァ・ワ VA ヴァ
VI ウィ VI ヴィ
VV ウゥ・ウウ VU
VE ウェ VE ヴェ
VO ウォ・ヲ VO ヴォ

Yの導入とZの復活

ローマはギリシアを領土に組み込むにあたりギリシア語を導入しました。ギリシア文明はローマにとって規範になっている面が多かったためラテン語に吸収しきれなかったのでした。古代ローマはラテン語とギリシア語のバイリンガルの国になっていて教養あるローマ人はギリシア語も使っていました。このときギリシアのYがローマ字にも導入されました。Yはフランス語ではイグレックと呼ばれています。これはi-grec「ギリシアのI」という意味です。

また初期に消えてしまったZもギリシア語の転写のために再度導入されました。でも元のZの位置はGですでにふさがっていたためZは最後におかれました。もしZが途中で消されていなければ今頃アルファベットの順序は違うものになっていたかもしれません。

Wの導入

Wはローマとは関係ない経緯で導入されました。中世にゲルマン系の言葉を転写するために中世ラテン語に導入されました。Vを二つ並べて書かれているのがWの由来です。英語ではダブリューつまり「二重のU」と呼んでいます。VとUはもともと同じ字であった事を考えるとこの呼び方は納得がいきます。フランス語ではドゥブルヴェ、と呼ばれています。これはdouble v「二重のV」という意味になります。導入が後の方とはいえVのバリエーションとして捉えられたため最後尾のZの後ではなくVのすぐ後におかれたのでした。こうしてみるとZはなんだか貧乏くじでしたね。

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