古代の画家アペレス(12)靴屋の意見その2

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展示した自分の作品の評価をその作品の裏に隠れて聞く習慣のあったアペレスはある指摘を受けます。

feruntque reprehensum a sutore, quod in crepidis una pauciores intus fecisset ansas, eodem postero die superbo emendatione pristinae admonitionis cavillante circa crus, indignatum prospexisse denuntiantem, ne supra crepidam sutor iudicaret, quod et ipsum in proverbium abiit.

以下のようなことが伝えられている。アペレスはある靴屋に指摘された、それは絵の中に書かれている靴の紐の折り返しが一つ足りないというものだ。翌日その忠告の修正をみて靴屋は得意になり足のあたりについて批評を始めた。アペレスは憤慨して絵の裏から姿を現しこう主張した、靴屋はサンダルより上については判断するべきではないと。この出来事自身もまた格言になった。

feruntはfero「運ぶ」の三人称複数現在で伝聞に使われます。「彼らはこう伝えている」「このように伝えられている」という意味でその内容は不定句でreprehensum a sutoreになります。ここには動詞の不定法はないのですがesseが省略されています。reprehensumは動詞 reprehendo「抱える」の完了受動分詞対格男性単数です。reprehendo は他に「欠点を指摘される」という意味がありアペレスが何か間違いを指摘されたようです。指摘したの誰かというと前置詞aと奪格で示され、sutoreは男性名詞sutor「靴職人」の単数奪格です。

指摘された内容はquod 以下です。in crepidis「サンダルにおいて」、crepidisは女性名詞crepidia「ギリシア人の靴」つまり「サンダル」の奪格複数です。una pauciores ansasは「一つ少ない持ち手」でおそらくサンダルの紐を折り返す部分を指しているようです。

Buskin (PSF).jpg
By Pearson Scott Foresman – Archives of Pearson Scott Foresman, donated to the Wikimedia Foundation, Public Domain, Link

intusは副詞「内側に」で絵の中に書き込まれていることを指します。fecissetはfacio「作る」の三人称単数過去完了接続法でここでは「絵に描いた」ことになります。

eodem postero dieは奪格男性単数で「その翌日」、superbo cavillanteは絶対奪格で「傲慢な男が批評をしている時」、superboは形容詞superbus「傲慢になった」の奪格男性単数で昨日の靴屋で、cavillanteはデポーネント動詞cavillor「あざ笑う」「批評をする」の現在能動分詞の奪格男性単数です。なぜ傲慢になっているのかというと奪格で説明されています。emendationeは女性名詞 emendatio「修正」「改善」の奪格単数です。さらに属格女性単数 pristinae admonitionis 「以前の忠告の」でemendationeが限定されています。つまり靴屋が前の日に絵に対して行った欠点の指摘に対して今日は修正されているので絵師が自分の意見を重くみたと感じ傲慢になったのでした。そしてさらにcavillor 批評をしたわけです。なにに対して批評したかというと circa crus「足のあたり」です。

feruntを補う第二の不定句がindignatum peopexisseでindignatumはデポーネント動詞 indignor「憤慨する」の完了能動分詞対格男性単数、prospexisseは prospicio「姿を現す」の完了不定法で、不定句全体では「彼は憤慨して姿を現した」となります。

この不定句にはもう一つ分詞があります。denuntiantem 「宣言する」「公表する」の現在能動分詞対格男性単数です。宣言する内容は接続詞 ne「するべきではない」以下で説明されます。その内容はsutorは主格単数「靴屋」、iudicaretはiudico「判断する」の半過去接続法、supra crepidam「サンダルの上」、アペレスの主張は「靴屋はサンダルの上について判断するべきではない」ということになります。靴屋の忠告は靴については聞くけれど靴に関係ない事柄については聞かないと言っています。

quod以下は関係節です。 abiitはabeo「出発する」の完了でin proberbiumは「格言の中に」ipsumはquodと一緒に「そのこと自身」つまりアペレスの主張内容のことです。ちなみにその格言とはこのようなものです。

Ne sutor ultra crepidam 靴屋は自分の専門から離れぬのがよい  / Let a shoemaker(cobbler) stick to his last

これは何も靴屋に限ったことではないでしょう。靴屋も絵の批評をしたら急に飛び出してきた作者に怒られたのですからさぞビックリしたことでしょう。

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