まだ物事の秩序立っていなかった若い世界に神々が集って天体やその動きに名付けをするのがこの第6スタンザの内容になります。この「名付け」は、単に呼称をつけるだけでなく天体の運行を統制することも意味しているかもしれません。こうして時間の観念が作られました。
テキスト
Þá gengu regin öll / á rökstóla,
そして世界を治める力ある神々は 裁定の席へと赴いた
ginnheilug goð, / ok um þat gættusk;
そこで高貴な神々は 協議を行った
nátt ok niðjum / nöfn um gáfu,
夜と月の満ち欠けに 彼らは名を与えた
morgin hétu / ok miðjan dag,
朝と真昼を その名で呼んだ
undorn ok aptan, / árum at telja.
昼下がりと夕暮れを 年月を数えるために
Poetic Edda – Völuspá 6
By Tomruen – Lunar_libration_with_phase_Oct_2007.gif, Public Domain, Link
解説
Þá gengu regin öll / á rökstóla,
þáは英語のthenに相当し「それから」の意味になります。genguは動詞ganga「行く」「歩く」の三人称複数過去です。主語は中性名詞regin「神々」、この名詞は複数しかありません。öllはallr「全ての」の主格中性複数でreginにかかっています。allrは英語のallやドイツ語のallerと同じ由来です。
前置詞 áは対格が続く場合動きを持ち「〜の上へ」となります。一方与格の場合は動きはなく「〜の上で」となります。rökstólaはrökとstólaの複合語です。stólaは男性名詞stóll「椅子」「玉座」の対格複数です。日本語でスツールというと足の長い椅子になりますが、ここでは標準的な椅子の意味、または神様のための豪華な椅子を想像したいところです。rökは通常複数の中性名詞で「審判」の意味です。
ginnheilug goð, / ok um þat gættusk;
ginnは強調を意味する接頭語のようです。第2スタンザに出てきた由来不明の大きな裂け目 ginnungagapにもこの接頭語が付いているという意見もあるようです。heilugはheilagrの主格中性複数で「聖なる」を意味する形容詞で次のgoðに係ります。英語のholyやドイツ語のheiligと同じ由来です。goðは「神」の主格複数です。この単語は単数複数の主格対格が同じ形ですが形容詞ginnheilugや後に来る動詞gættuskで複数であることを判定できます。
okは英語のandに相当する接続詞でumは後に続く動詞が完了していることを意味します。gættuskは動詞gæta「見張る」「守る」「世話をする」の三人称複数中動受動態過去です。この動詞は中動受動態mediopassiveの時には「協議をする」という別の意味を持ちます。
um þatは「それについて」を意味しますが「それ」は以下で語られることを表しています。このような指示代名詞の使い方を後方照応cataphoricと呼びます。
nátt ok niðjum / nöfn um gáfu,
náttとniðjumはともに与格で後に来る動詞の関節目的語になっています。náttは女性名詞nátt「夜」の与格単数、niðjumは女性名詞nið「新月」「欠けた月」の与格複数になります。gáfuは動詞gefa「与える」の三人称複数過去で主語は上の神々をそのまま受け継いでいます。nöfnは中性名詞nafn「名前」の複数対格で動詞géfuの直接目的語です。
náttは単数なので夜に対しての名前は一つですが、niðjumは複数なので月の満ち欠けによって複数の名前を与えたことが読み取れます。
morgin hétu / ok miðjan dag,
morginは男性名詞morginn「朝」の対格単数で英語のmorningやドイツ語のMorgenと同じ由来です。hétuは動詞heita三人称複数過去です。このheitaは自動詞と他動詞の両方の使い方があり自動詞の場合は「〜という名前である」「〜と呼ばれている」という意味になり、他動詞の場合には「名前で呼ぶ」「名付ける」の意味になります。ここでは対格の名詞があるので他動詞の使い方になります。
dagは男性名詞dagr「日」の対格単数で英語のdayやドイツ語のTagと同じ由来です。miðjanは形容詞miðr「真ん中の」の男性対格でdagを修飾しています。miðr dagrは「真昼」を意味してちょうど英語のmiddayやドイツ語のMittagに相当します。
undorn ok aptan, / árum at telja.
undornは午後三時くらいを指す男性名詞の対格単数で英語にも似た言葉があったようですが今は使われていません。aptanは男性名詞aptann「夕暮れ時」「宵」の対格単数で英語のeveningやドイツ語のAbendと同じ由来の言葉です。
teljaは不定動詞で「数える」の意味です。atの後に不定動詞がくると英語のto+不定動詞と同じ作りになります。ここでは「数えるため」というような目的を意味します。
árumは中性動詞ár「年」の与格複数です。telja árumは熟語で「年によって時間を計る」という意味になります。