巫女の予言(5)太陽と月と星座

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第5スタンザには太陽と月と星座の記述があります。白夜の表現とも取れる北方独特の描写です。

テキスト

Sól varp sunnan, / sinni mána,

月の追跡者である太陽は 光を南から投げる

hendi inni hœgri / um himinjódyr;

天空の縁の周囲を 時計回りに

sól þat ne vissi / hvar hon sali átti,

太陽は知ることはなかった どこに自分の住まいがあるかを

máni þat ne vissi / hvat hann megins átti,

月は知ることはなかった 自分がどんな類の力を持っているかを

stjörnur þat ne vissu / hvar þær staði áttu.

星々は知ることはなかった 自分たちがどこに座を占めているのかを

Poetic Edda – Völuspá 5

Altafjord01.jpg
By Vberger at French Wikipedia – Transferred from fr.wikipedia to Commons., Public Domain, Link

解説

Sól varp sunnan, / sinni mána,

sólは女性名詞「太陽」の主格でこの文の主語です。varpは動詞verpa「投げる」の三人称単数過去でここでは目的語がないのですが「太陽の光」で良いと思います。sunnanは第4スタンザにも出てきましたが副詞で「南から」です。

sinniは主格単数で「追う者」「同行者」、mánaは「月」を表す男性名詞mániの属格です。sinni mánaは「月の同行者」「月の追跡者」という意味でsinniが主格であることから太陽の言い換えになります。

hendi inni hœgri / um himinjódyr;

文章は前の行から続いています。hendi inni hœgriはすべて与格男性単数で、hendiはhönd「手」、inniは指示形容詞で英語のherに相当、hœgriは形容詞hœgr「易しい」「便利な」の比較級です。hœgrは比較級になると「右の」という意味を持ちます。umは対格支配の前置詞で「〜のあたりを」「〜の周りを」という意味です。himinjódyrはhiminn「空」とjódyr「縁」「境界」の複合語です。

um himinjódyrは「空の縁の周りを」となりことを考えると先ほどの与格hendi inni hœgriは手段や方法の意味で「右手の方向に」つまり「時計回りに」という意味に取れます。北極圏の白夜の様子をここでは語っていると理解されています。

もし太陽がこちらを向いていて自分の右手の方向に回るとしたら反時計回りになってしまうのですがここでは「右手」「回る」の部分に注目し深くは追求しないことにします。

sól þat ne vissi / hvar hon sali átti,

ここから3行は太陽と月と星々の並置になります。

vissiは動詞vita「知っている」の三人称単数過去で否定の副詞neを伴い「知らなかった」となります。þatは指示代名詞の対格単数でhvar以下の関節疑問文の形式上の目的語です。

hvarは疑問副詞「どこに?」、honは指示代名詞で主格男性単数、つまり太陽自身を指します。áttiは動詞eiga「持っている」「所有している」の三人称単数過去でsaliは「部屋」「広間」ですが前のスタンザ同様中つ国全体を指していると思われます。

máni þat ne vissi / hvat hann megins átti,

mániは男性名詞「月」の主格で、þat ne vissiは太陽と同様「それを知らなかった」となります。hvatは疑問代名詞「何を」で英語のwhatと同じ由来です。hannは主格女性単数の指示代名詞で「月」自信を表しています。meginsは中性名詞megin「力」の属格単数で英語のmightと同じ由来です。この属格はhvatにかかるのでhvat meginsは「力の何を?」という意味になりますが日本語的には「どのような種類の力を?」となると意味が通りやすいでしょう。

stjörnur þat ne vissu / hvar þær staði áttu.

stjörnurは女性名詞stjarna「星」の主格複数で英語のstarと同じ由来です。全体の形式は同じですが動詞vissuとáttuは三人称複数になっています。þærは主格女性複数でstjörnur「星々」を指しています。staðiは男性名詞staðr「場所」の対格複数で星々の場所を意味します。「複数の星」とその「置かれる場所」についての言及から「星座」の表現と思われます。

この最後の3行はそれぞれ中つ国の重要な要素である天体がまだその役割を認識していないほど世界が若かったことを表現しています。

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