ラテン語と違い古典ギリシア語には冠詞があります。働きとしては英語の定冠詞difinitive articleあるいは指示代名形容詞demonstrative adjectiveと同じ機能を持ち通常は名詞の前に置かれます。冠詞は格と性、数で変化します。格は主格nominative、対格accusative、属格genitive、与格dativeで変化します。性は男性masculine、女性feminine、中性neuterで変化し、数は単数singular、双数dual、複数pluralで変化します。
冠詞の変化表
男性 | 女性 | 中性 | ||
---|---|---|---|---|
単 | 主 | ὁ | ἡ | τό |
呼 | – | – | – | |
対 | τόν | τήν | τό | |
属 | τοῦ | τῆς | τοῦ | |
与 | τῷ | τῇ | τῷ | |
双 | 主・対(呼) | τώ | ||
属・与 | τοῖν | |||
複 | 主 | οἱ | αἱ | τά |
呼 | – | – | – | |
対 | τούς | τάς | τά | |
属 | τῶν | τῶν | τῶν | |
与 | τοῖς | ταῖς | τοῖς |
変化の特徴
変化を丸覚えする前にどのような傾向があるかを見ておきます。
直格と斜格
格には直格direct caseと斜格oblique caseとに分類できます。直格は文章の構造に直接影響を与える主格と対格をさします。また主格と同じ変化をする呼格もこちらに分類されます。斜格は直格以外のものをさし文章の構造に決定的な影響を与えないものになります。ラテン語の奪格ablative caseも斜格になります。
男性と中性の斜格が同じ
男性と中性とを見ていくと数に関係なく斜格で同じ変化をしているのがわかります。全体に頻度が高い直格では変化が豊富なのに対して頻度の低い斜格で変化が少ないというのはわかりやすい特徴です。
中性の直格は同じ
ラテン語にも共通していますが中性の主格と対格は常に同じで数によってのみ変化します。中性の名詞は無生物inanimatedのものが多くほとんどの場合主体となって動作をすることがありません。そのため主格と対格が同じ形になります。これは名詞や形容詞でも同じ傾向があるので覚えておきたいところです。
男性と女性は母音の違いを除くとにている
男性にはοやωが使われ女性にはαやηといった母音が使われます。この母音を挟む子音は両者で共通している箇所がほとんどです。
主格は辞書の見出しにも出てくる
名詞を辞書で調べると主格単数、属格単数、性の順で見出しが記述されていることがほとんどです。性については男性がm.、 女性がf.、 中性がn.と書かれることもありますがそれぞれ冠詞を使ってὁ、ἡ、τόと書かれる場合もあります。音は「ほ」「へー」「と」なので「いろは」の一部分に聞こえて日本人には親しみがあると思います。
ἡμέρα, ἡμέρας, ἡ 日中、1日
双数の変化
双数は性に関係なく直格同士で同じ形、斜格同士で同じ形になります。ただし女性についてはτά、ταῖνという変化をする場合があります。
不定冠詞の不在
ギリシア語には英語の不定冠詞にあたるものはありません。その代わりに不定代名形容詞indefinitive adjective τιςを使います。