第7スタンザではアース神族が祭事と鍛治を行う様子が語られています。祭事と鍛治は文明社会の象徴と思われます。
テキスト
Hittusk æsir / á Iðavelli,
アース神族はイザヴェルの地に集まり
þeir er hörg ok hof / hátimbruðu,
そこで祭壇と寺院を 高々と築き
afla lögðu, / auð smíðuðu,
鍛冶場を置き 様々な調度品を精錬した
tangir skópu / ok tól görðu.
たくさんの火箸をつくり 様々な道具を作り出した
Poetic Edda – Völuspá 7
フェロー諸島の切手 Public Domain, Link
解説
Hittusk æsir / á Iðavelli,
æsirは男性名詞áss「アース神族の一人」の複数主格です。アースとは北欧神話の神の種族でオーディンはこの神族の長です。単に神々と呼ばないのはヴァン神族 Vanrという他の神族がいるためです。hittuskは動詞hitta「当たる」「会う」の三人称複数中動態過去です。この動詞は中動態になると「互いに会う」「集まる」の意味になります。
áは与格を取る前置詞で英語のonに相当します。ここでは場所を表します。IðavelliはIðavöllrの与格で通常は場所を表す固有名詞としてイザヴェルと読まれます。由来は定かではありませんがvöllrは「平野」という男性名詞なので複合語であると推測されます。英語ではsplendour-plain「雄大な平原」という訳を当てるものもあります。
þeir er hörg ok hof / hátimbruðu,
þeir erは関係節で先行詞 þeirが男性複数であることからアース神族を指しています。関係節を先行詞の前に置く日本語の構文に合わせると意味が通じなくなることがあります。「集まった」後に「建てた」のであって「建てた神々が集まった」のではありません。ここはあくまで主節の後に関係節の出来事があったように訳すために並置にして訳しています。
hörgは男性名詞 hörgr「聖域」「祭壇」の単数対格、hofは中性名詞 hof「寺院」の対格です。hofは単数複数主格対格で同形ですがここではhörgに合わせて単数と解釈しました。
hátimbruðuは形容詞 hár「高い」と動詞 timbra「建てる」の複合語で三人称複数過去です。
afla lögðu, / auð smíðuðu,
aflaは男性名詞 afl「鍛治の炉」の複数対格、auðは男性名詞 auður「富」の単数対格です。auðurは抽象名詞のため単数しか存在しませんが「金属を精錬する」という意味をもつ動詞smíðuðuの目的語のため「富を象徴する調度品」と訳しました。
ちなみにこのauðurと同じ由来の言葉が古英語にありました。eadというこの言葉は現代英語では使われませんがEdward、EdmundやEdgarなどed-ではじまる人名に残っています。それぞれ「繁栄の見張り」、「繁栄の守り」、「繁栄の槍」という意味を持つ複合語でした。
simiðuðuは動詞smíða「金属を精錬する」の三人称複数過去で英語のsmithと同じ由来の言葉です。
tangir skópu / ok tól görðu.
skópuもgörðuも「作る」という意味の動詞skapa、geraの三人称複数過去で英語のandに相当する接続詞okによって並置されています。tangirは女性名詞 töng「火箸」の対格複数です。この単語は英語経由でトングという日本語にもなっています。tólは複数のみの中性名詞tól「道具」の対格でこちらも英語のtool経由でツールという日本語になっています。