第4スタンザでユミルの時代の後人間の住む世界が生まれます。これはオーディンたちの働きによるものでした。
テキスト
Áðr Burs synir / bjöðum um ypðu,
その昔ブルの息子たちがいくつかの平野を持ち上げた
þeir er Miðgarð / mæran skópu;
こうして彼らは栄光ある中つ国ミズガルズを作り出した
sól skein sunnan / á salar steina,
太陽は南から輝いた 広い世界の岩々の上へ
þá var grund gróin / grœnum lauki.
やがて緑の野原が現れ 青々としたネギがそれに続いた
à Miðgarði「ミズガルズにおいて」と書かれている — By I, Berig, CC BY 2.5, Link
解説
Áðr Burs synir / bjöðum um ypðu,
áðrは副詞「以前に」という単語ですが「中つ国ができる前に」という意味です。BursはBurrの属格で男神を意味します。他にBorrとも表記されるためブルまたはボルと日本語の表記は揺れています。synirはsonr「息子」の主格複数です。Burs synirはブルの息子たち、つまり北欧神話の主神オーディンとその兄弟を指します。
ここでは詳細には語られていませんがオーディンたちはユミルを倒しその死体を材料として中つ国を作ります。
ypðuは動詞yppa「持ち上げる」三人称複数過去で、umは動作を完了する意味を表す接辞です。bjöðumは女性名詞bjöð「平坦な土地」の与格複数です。動詞yppaは与格を取るかは定かではありませんが直接目的として与格を訳しても日本語としては意味が通じそうです。
þeir er Miðgarð / mæran skópu;
þeir er以下は関係節で、先行詞 þeirは主格男性複数なのでオーディンたちを指しています。 skópuは動詞skapa「形作る」「想像する」の三人称複数過去です。
MiðgarðはMiðgarðrの対格単数で世界樹に内包される九つの世界の一つで人間の世界を指します。日本語では中つ国、あるいはそのままミズガルズ、あるいは英語化したMidgardからミッドガルドなどと呼ばれます。もともとは「中央」を表す形容詞miðrと「囲われた空間」「中庭」を表す男性名詞garðrの複合語です。mæranは世界樹を意味する表現 mjötvið mæranで出てきたものと同じで形容詞mærr「栄光ある」の対格男性単数でMiðgarðと格性数で一致しています。
sól skein sunnan / á salar steina,
skeinは動詞 skína「輝く」の三人称単数過去で英語のshineと同じ由来です。sólは主格で「太陽」、sunnanは副詞で「南から」を表します。
áは前置詞で「〜上に」を表しますがそれに続く単語が対格の場合は動きや方向を伴い与格の場合は動きのない位置を表します。steinaは男性名詞 steinn「石」「岩」の対格複数なので方向を伴う表現になります。このように前置詞の格支配が複数パターンありそれにより意味の変わるケースはドイツ語にも見られます。
salarは男性名詞salrの単数属格で「部屋」「広間」を意味しますが建物がいきなり出てくるのもわかりにくいですし次の行で言われるように緑豊かになるのも変です。ここでは「広い空間」つまり中つ国全体を指すものと理解しました。
þá var grund gróin / grœnum lauki.
þáはその次に起こることを表す副詞で英語のthenに相当します。grundは女性名詞「野原」の意味です。groínは動詞gróa「植物が育つ」の過去分詞gróinnの主格女性単数でgrundを修飾しています。ここの動詞varは「存在した」ですが副詞þáと組み合わさり「姿を見せた」という意味にちかくなります。
grœnum laukiは与格で主語とともにあることを意味します。laukrは英語のleekと同じ由来でネギやニラまたはニンニクなどを意味します。単に緑が現れるだけでなく食用の植物が現れることで豊かな世界になったことを表現したのだと思われます。