ルクレティウスについて調べていたら興味深い本を見つけたので紹介したいと思います。以前ルクレティウスの著作De rerum natura「事物の本性について」(英題 “On the nature of things”)について小学生向けにかなり噛み砕いて書かれている本を紹介しました。今回はルネサンス以降の近代にルクレティウスが大きく影響を与えたというノンフィクションの本を紹介します。
一四一七年、その一冊が全てを変えた / スティーヴン・グリーンブラッド著 河野純治訳
図書館の検索でルクレティウスで出てきたため早速借りて読みました。内容は古代の哲学者で自然科学者で詩人でもあるルクレティウスの著作「事物の本性について」が古代の終わりとともに失われ、ルネサンスに先駆けて掘り起こされ、多くの近代人に影響を与え、今の私たちの生活にもその影響が及んでいる、という話です。
作者のグリーンブラッドStephen Greenblattはアメリカ東海岸ハーバードの教授です。ルクレティウスはその著作の中で「世界は原子から作られていて原子の絶え間ない運動で世界は変遷している」「神々はこの世界に対して関与していない」という主張をします。これはキリスト教の教義に反するため古代の多くの著作と同じように闇に葬られてしまいます。
ただ中世の修道院では修練のための写書が奨励されていて古代の書物のいくつかは細々と図書館の奥で生き延びます。
15世紀の初めのイタリアの人文主義者ボッジオ・ブラッチオーニPoggio Braccioniによってこの著作は図書館から掘り起こされます。彼はブックハンターとも呼ばれ古代の書物を求め各地の修道院の図書館を探索していました。
本の主な内容はこのポッジオの時代のこと、ポッジオ自身の活動、ルクレティウスの著作が発見される様子、当時やその後のルネサンスの重要な作品への影響が中心に書かれています。有名なルネサンスの人間中心の世界を描く作品はルクレティウスの思想がなければ成立しなかったようにさえ思えます。
最後のアメリカの独立への影響は一連の話を締めくくるにあたって素晴らしい逸話に思えました。
この本は以下のような興味と関連すると思います。
- ルネサンスの原動力
- 知的な分野での冒険家の活動
- 古代の思想
- 古代の終わりと中世の始まり
- 中世の世界観
- ローマ教会
- ラテン語とその使われ方
- 近代現代思想
- ルクレティウスと「事物の本性について」