ギリシア語の動詞:増加音と畳音1

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ギリシア語の動詞変化のうち語頭に出てくる変化をまとめます。語頭の変化は二種類あり一つは増加音、英語とフランス語でaugmentと呼ばれているもの、もう一つは畳音、英語でreduplication、フランス語でredoublementと呼ばれているものです。

増加音

ギリシア語文法は日本語で一般化されていないため「加音」とか「語頭母音」などと呼ばれていますが英語やフランス語の意味との乖離があるためここでは「増加音」と呼ぶことにしています。増加音とはλύωの変化のうち第二時制に出てくる ε-のことで一人称単数でいうと未完了でἔλυον、アオリストでἔλυσα、過去完了でἐλελύκεινとなっていました。

このε-はもともとは副詞に由来するもので「そのとき」とか「昔々」などの意味を持つものでした。ホメロスの頃の活用では付けられない場合もありました。

この増加音ですが元の動詞の語幹が子音で始まるか母音で始まるかで変化の仕方が変わります。まず子音の場合は音節的 syllabiqueな変化をします。つまりλύωのようにε-が一つの音節として前に追加される場合です。次に母音の場合には時間的 temporelな変化をします。つまり語頭の母音のモーラ(短母音や長母音を区別する言葉)が長くなります。

増加音の時間的変化のまとめ l’augment temporel

以下に一覧を挙げます。

変化前 変化後 現在 未完了
α η ἀγορεύω「公言する」 ἠγόρευον
ε η ἐλπίζω「希望する」 ἤλπιζον
ο ω ὀρέγω「届く」 ὤρεγον
αι αἴρω「除く」 ᾔρον
αυ ηυ αὔξω「増加する」 ηὔχον
οι οἰκίζω「植民する」 ᾤκιζον
ευ ηυ εὔχομαι「祈る」 ηὐχόμην
ει ει / ῃ εἰκάζω εἴκαζον / ᾔκαζον

ειは二通りのパターンが見られます。長母音ωは変化しません。ιやυの場合はそれが短母音の場合は長母音になりますが見た目は変わりません。

その他の注意

語幹が子音ρで始まる動詞はρが二重になります。ῥίπτω「投げる」は未完了でἔρριπτονとなります。

音節的変化は一般にε-が付くとされていますがη-が付くときもあります。μέλλω「〜しようとする」はἔμελλονの他ἤμελλονとなる場合もあり、βούλομαι「欲する」はἐβουλόμηνの補回ἠβουλόμηνと書かれることもあります。

純語幹に接頭辞が付いている複合動詞の場合は純語幹に増加音の変化が起こり接頭辞に変化は起きません。ἀναβαίνωはβαίνωにανα-が付いたもので未完了はἀνέβαινονとなります。これは*ανα-εβαινονが縮約した形です。

例外

εで始まる動詞の幾つかはηとはならずειになります。これは今は消えてしまった語頭の子音が影響していると考えられεεがειとなりました。

現在 現在の理論上の形 未完了の理論上の形 未完了
ἐχω *σεχ-ω *ἐ-σεχ-ον εἶχον
ἐργάζομαι *ϝεργαζ-ο-μαι *ἐ-ϝεργαζ-ο-μην εἰργαζόμην
ἕπομαι *σεπ-ο-μαι *ἐ-σεπ-ο-μην εἱπόμην

ἐχω「持つ」、ἐργάζομαι「働く」、ἕπομαι「追う」の他にἐω「譲る」、ἐθίζω「習慣づける」、ἕλκω「引く」、ἑλίττω「回す」、ἕρπω「ゆっくり歩く」などがあります。

またϝが語頭についたとされる動詞の幾つかは母音の長さが交代する現象(ηοがεωになるなど)が起こり不規則な変化となります。

現在 現在の理論上の形 未完了の理論上の形 未完了
ὁραω *ϝορα-ω *ἠ-ϝορα-ον ἑώρων
ἀνοίγω *ανα-οιγ-ω *ανα-ε-ῳγ-ον ἀνέῳγον

ἀνέῳγονは増加音が二重に掛かっていることがわかります。

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