巫女の予言(21)グルヴェイグの受難

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第21スタンザではグルヴェイグの処刑について物々しい描写で語られています。グルヴェイグはヴァン神族の女神と言われ、一説にはフレイヤではないかと言われています。

テキスト

Þat man hon fólkvíg / fyrst í heimi,

彼女は人々のその争いを覚えている その世界の中で最初の

er Gullveig / geirum studdu

グッルヴェイグは 無数の槍で刺され

ok í höll Hárs / hana brendu;

オーディンの館の中で 焼かれた

þrysvar brendu / þrysvar borna,

彼女は三回燃やされ 三回よみがえった

opt, ósjaldan, / þó hon enn lifir.

繰り返し繰り返し 彼女はいまだに生きながらえている

Poetic Edda – Völuspá 21

Gullveig by Frølich.jpg
By Lorenz Frølich – Published in Gjellerup, Karl (1895). Den ældre Eddas Gudesange, p. 6. Scanned from a 2001 reprint., Public Domain, Link

解説

Þat man hon fólkvíg / fyrst í heimi,

manは動詞 manu「覚えている」の三人称単数現在です。主語は人称代名詞 hon「彼女は」ですþatは中性の対格単数の代名形容詞で中性名詞 fólkvíg「人々の諍い」の対格単数を修飾しています。þatは主格と対格が同じ形なので主語にもなりうるように見えますがhonが主格以外の可能性がないので消去法で対格になります。fólkvígは中性名詞 fólk「民衆」「人々」と修正名詞 víg「戦い」「殺人」の複合語です。

fyrstは副詞で「最初に」の意味です。英語のfirstと同じ由来です。íは与格を取る前置詞で heimiは男性名詞 heimr「家」「世界」の与格単数でí heimiで「その世界において」という意味になります。

er Gullveig / geirum studdu

er以下は関係節で先行詞はfólfvígです。erは他に「〜のとき」という意味の接続詞である可能性もありますが関係節の方が訳しやすいと思います。

Gullveigは北欧神話の女神であるとされています。由来は複合語でgullは中性名詞で「金」と、veigは女性名詞で「強い酒」または「強さ」からきています。人々に強い影響を与えそうな名前です。音はグッルヴェイグに近いのですがグルヴェイグのカタカナ表記が定着しているようです。

geirumは男性名詞 geirr「槍」の与格複数で手段を表します。studduは styðjaの三人称複数過去です。意味は主に使われる「支える」の他に「突き刺す」があり、ここでは後者です。この動詞の主語はなく不特定の「彼ら」と解釈されます。この場合対格のGullveigを主語に持ってきて受動態として訳すと自然です。

ok í höll Hárs / hana brendu;

í höllで「広間の中で」の意味になります。höllは女性名詞höll「広間」の与格で英語のhallと同じ由来です。Hársは形容詞 hárr「白髪の」の属格男性単数で実体化して「白髪の男の」という意味になります。Hárrはオーディンの別名と言われています。

hana は人称代名詞の対格女性単数でGullveigを指します。brenduは動詞 brenna「燃やす」の三人称複数でこちらも主語がないので受動態にして訳してあります。

þrysvar brendu / þrysvar borna,

þrysvarは副詞で「三回」、brenduは上で説明した通り「彼ら燃やした」となります。

この目的語はbornaで動詞bera「産む」の過去分詞の対格女性単数です。過去分詞は受け身の意味を持つのでþrysvarと合わせて「三回生まれた女」という意味になりますがここは「生まれる」よりは「よみがえった」のほうが自然でしょう。

現代文のように訳すと「彼らは三回よみがえった女を三回燃やした」となりますが古典文では並置の複文のように解釈するのがよいです。

opt, ósjaldan, / þó hon enn lifir.

optは副詞で「しばしば」、英語のoftenと同じ由来です。ósjaldan「繰り返し」は副詞でó-とsjaldanに分かれます。ó-は接頭辞で否定を意味し、英語のun-と同じ使われ方をします。sjaldnanは副詞「滅多にない」で英語のseldomに相当します。ósjaldan本来の意味は「滅多にないわけではない」ということになります。

英語の今は使われない単語でunseldomというものがあり、やはり「繰り返し」の意味があります。

opt ósjaldanで「何度も何度も」という熟語となるようです。þóは副詞で「いまだに」、enn も副詞でこちらも「いまだに」の意味を持ちます。lifirは動詞 lifa「生き残っている」の三人称単数現在です。

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