第11スタンザからしばらくはドヴェルグ族の名前が延々と列挙されます。この部分は後から足されたとの説もありあまり重要視されることはありません。確かに名前をカタカナで並べるだけであればそうでしょう。ここではできる限り名前の由来を探っていきます。前回も参照したグールドの『ドワーフの名前』を参考にしています。
テキスト
Nýi, Niði, / Norðri, Suðri,
新月のニューイ、欠けた月のニジ、北のノルズリ、南のスズリ
Austri, Vestri, / Alþjófr, Dvalinn,
東のアウストリ、西のヴェストリ、盗人アルショーブ、怠惰なドヴァリン
Nár ok Náinn, / Nípingr, Dáinn,
死んだようなナールと死んだようなナーイン、
鼻摘まみのニーピングル、もう一人死んだようなダーイン
Bifurr, Böfurr, / Bömburr, Nóri,
熱中屋のビーブル、バーブル、太鼓腹のボンブル、チビのノーリ
Ánn ok Ánarr, / Óinn, Mjöðvitnir.
古き英雄アーンと待ちくたびれのアーナル、
照れ屋のオーイン、ハチミツ酒狼のミョズヴィトニル
Poetic Edda – Völuspá 11
By Lorenz Frølich – Published in Gjellerup, Karl (1895). Den ældre Eddas Gudesange. Photographed from a 2001 reprint by bloodofox (talk · contribs)., Public Domain, Link
解説
Nýi, Niði, / Norðri, Suðri,
Nýiは新月と関連づけられます。形容詞 nýrは「新しい」という意味です。
Niðiは「暗い月」「欠けた月」と関連づけられます。 女性名詞 niðは「新月前の月」または「月の暗い部分」を指します。
Norðriは中性名詞 norðr「北」からSuðriは中性名詞 suðr「南」から来ています。
Austri, Vestri, / Alþjófr, Dvalinn,
Austriは中性名詞 austr「東」からVestriは中性名詞 vestr「西」から来ています。
Alþjófrは allr「全て」とþjófr「盗人」の複合語とされています。
Dvalinnは dvalen「怠惰な」やdvale「冬眠」あるいは動詞 dvelja「遅れる」との関係があるとされています。
Nár ok Náinn, / Nípingr, Dáinn,
Nárは男性名詞 nár「死人」「死体」からNáinnは「nárのような」という意味から「死人のような」という意味になります。
Nípingrはアイスランド語 nípingur「鼻摘まみ」やノルウェー語 nypa「つねる」またはnípuleikurというスカンジナヴィアで知られる遊戯から来ているとも言われています。
Dáinnは動詞 deyja「死ぬ」と関連があり「死んだような」の意味があると言われています。
Bifurr, Böfurr, / Bömburr, Nóri,
Bifurrは古ノルド語 bjórr、ノルウェー語 bøver、スウェーデン語 bäver、デンマーク語 bœver、アイスランド語 bifurrと関連があり「ビーバー」あるいは「熱中する人」の意味
Böfurrは不明ですがBifurrとの語呂合せではないかと言われています。
BömburrはBumburr とも書かれ bumba「ドラム」「たいこ腹」「妊娠した女性のお腹」などの意味があります。
Nóriはアイスランド語 nóri「小さいかけら」などと関連があるようです。
Ánn ok Ánarr, / Óinn, Mjöðvitnir.
ÁnnまたはÓnn、Ǫnnは古い英雄の名前か剣の一部分または「収穫」などと関連づけられています。
ÁnarrまたはÓnarrはノルウェー語 ona「何かを待ちあぐねる」との関連があると言われています。
Óinnは. óask「怖がる」「照れる」、ノルウェー語 oast「恐る」などと関連づけられます。
Mjöðvitnirはmjǫðr「ハチミツ酒」とvitnir「狼」の複合語と言われています。ハチミツ酒の狼の意味はなにか説話が存在するのかもしれませんが不明です。