巫女の予言(10)ドヴェルグ族の創造

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第10スタンザでドヴェルグ族の創造の過程について語っています。

テキスト

Þar var Móðsognir / mæztr um orðinn

そこでモーズソグニルは 最も偉大なものとなった

dverga allra, / en Durinn annarr;

全てのドヴェルグ族の中で、そしてその次がデュリンであった

þeir mannlíkun / mörg um görðu

彼らは人間に似たものを たくさん作り出した

dvergar í jörðu, / sem Durinn sagði.

ドヴェルグ族を大地から、 このようにデュリンは語った

Poetic Edda – Völuspá 10

Description de cette image, également commentée ci-après
Par BrokenMachine86 — http://brokenmachine86.deviantart.com/, CC BY-SA 4.0, Lien

解説

Þar var Móðsognir / mæztr um orðinn

þarは副詞「そこで」「その場所で」、varは動詞veraの三人称単数過去で英語のwasに相当するものです。orðinnと合わせて過去完了になっています。orðinnは動詞verða「〜になる」の過去分詞主格男性単数です。過去分詞は格性数で変化するため過去完了に出て来る過去分詞は主格で性と数は主語に一致します。

mæztrはmæstrとも書かれ形容詞mikill「偉大な」の最上級主格男性単数です。umは動詞に完了の意味をつける接辞でvar mæztr um orðinnは「彼は最も偉大なものとなった」となります。

Móðsognirはドヴェルグの固有名詞のようですが由来は諸説あります。「疲れた者」「力の弱い者」という意味だとされたりもします。グールド Chester Nathan Gouldの『ドワーフの名前』という記事 « Dwarf-Names: A Study in Old Icelandic Religion » によるとHe who roars in rage「憤怒の中で叫ぶもの」という訳が与えられています。男性名詞 moðr「怒り」「憤り」と古英語のswōgan「叫ぶ」に相当する古ノルド語動詞の複合語と説明しています。

dverga allra, / en Durinn annarr;

dverga allraは属格男性複数で「全てのドヴェルグ族の」という意味になります。修飾するのは前の行のmæztr です。enは対照を示す接続詞です。Durinn annarrは主格男性単数なのでその前にあった主格モーズソグニルと比較されています。annarrは「他の」「2番目の」を表す形容詞でDurinnは固有名詞です。由来は『ドワーフの名前』では男性名詞 dúrr「昼寝」から「眠たい者」の意味をあてています。

þeir mannlíkön / mörg um görðu

þeirは人称代名詞三人称男性複数です。mannlíkönはmaðr「人間」とlíkön「モデル」の複合語で「人間に似た者」という意味の対格中性複数です。mörgは形容詞 margr「たくさんの」の対格中性複数でmannlíkönと格性数で一致しています。

görðuは動詞 gera「作る」の三人称複数過去で完了の接辞umを伴って「彼らは作り終わった」という意味になります。

ところでここでの主語の彼らとは誰でしょうか? 多くの訳では「神々」をあてているのですが近いところで主語になっているのは神々ではなくモーズソグニルとデュリンです。それに前スタンザでは神々は「誰か」がドヴェルグ族を作るか相談していましたがその「誰か」はhverrという疑問代名詞で単数でしたから複数のþeirとうまく繋がりません。

色々な可能性のなかで一番しっくり来る解釈としては以下のようなものです。

  • 神々の一人がモーズソグニルとデュリンを作った
  • 彼ら二人が他のドヴェルグ族を作った

他のドヴェルグ族の創造には神々は介在しないという考え方です。たくさんのドヴェルグ族を作った後であれば、二人の名前の由来「疲れた者」「眠たい者」の意味も理解できます。

dvergar í jörðu, / sem Durinn sagði.

dvergarは対格複数、íは前置詞で与格を取る場合は「〜の中で」というように場所を意味します。jörðuは女性名詞 jörð「大地」「地球」の与格単数で、dvergar í jörðuは「大地の中のドヴェルグたちを」という意味になりますがこれは「岩や波から作った」ということの別な表現だと思われます。

sagðiは動詞 segja「言う」「語る」の三人称単数過去で主語はDurinnです。semは接続詞で英語のasに相当します。sem Durinn sagði は 英訳すると as Durin saidとなり「デュリンはこのように語った」となります。実際に他のドヴェルグ族を作ったのがモーズソグニルとデュリンであればデュリンがこのことを語るのはいたって自然です。

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