巫女の予言(1)前章

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古エッダのVöluspáという話をゆっくり読みたいと思います。Völuspáは複合語でvölvaは「女預言者」、spáは「予言」を意味します。テキストは写本により異なる部分があるのですが適宜それらしいものに変更しています。以下前置きとなる第1スタンザです。

テキスト

Hljóðs bið ek allar / helgar kindir,

静かに聞くことを私は求める 全ての聖なる氏族

meiri ok minni / mögu Heimdallar;

優れた者も劣る者も ヘイムダルの子供達

viltu, at ek, Valföðr! / vel framtelja

ヴァルハラの父よ 君はお望みか 私が語り上げることを

forn spjöll fira, / þau er fremst um man.

古の人々の物語、私が記憶する限りのことを

Poetic Edda – Völuspá 1

Odin og Völven by Frølich.jpg
オーディンと巫女 By Lorenz Frølich – Published in Gjellerup, Karl (1895). Den ældre Eddas Gudesange. Photographed from a 2001 reprint by bloodofox (talk · contribs)., Public Domain, Link

解説

物語に入る前の口上にあたる箇所です。スタンザは4行でひとまとまりになり、各行が中央で分かれます。

Hljóðs bið ek allar / helgar kindir,

biðはbiða「待つ」の一人称単数現在でその対象は属格になります。hljóðsはhljóðの属格単数で「沈黙」「静聴」の意味です。ekは主語「私は」となります。

以下2行目まで呼びかけになっています。複数形は主格と対格が同じ形が多いのですが次の行のmöguから対格だと判定できます。「私は<属格>を<対格>に求める」という構文になっているようです。

allar「全ての」helgar「神聖な」kindir「氏族」「種族」の3単語は全て対格女性複数です。形容詞 helgarの原形はheilagrでドイツ語のheilig、英語のholyと同じ由来です。

meiri ok minni / mögu Heimdallar;

meiriは形容詞 mikill「偉大な」の比較級対格複数で、minniはlítill「小さい」の比較級対格複数です。möguはmögr「息子」の対格複数、Heimdallarはアース神族の一柱ヘイムダルの属格、ヘイムダルは人間社会の秩序を作ったとされ「ヘイムダルの息子たち」とは人間たちを表します。

viltu, at ek, Valföðr! / vel framtelja

viltuはおそらくvilt þuの縮約でviltは動詞vilijaの二人称単数現在です。viltuは英語のwill you?に近い間投詞のようなものと思われます。

Valfödirは男性名詞valr「死」とfödr, fadir「父」の複合語で「戦士の死を司る神」の意味でオーディンを指します。

at ek vel framteljaは従属節でatは接続詞です。副詞 velは「良く」という意味で英語のwellと同じ由来です。framteljaはfram「前に」と動詞telja「数える」の複合語で一人称単数現在接続法です。従属節でこれから起こることを表現するために接続法が使われています。物語を「前に」「数える」のは順をおって語っていくことを意味します。

forn spjöll fira, / þau er fremst um man.

spjöllは中性名詞spjallの複数対格で「物語」「歴史」を意味します。形容詞 forn「昔の」と形容詞fira「人間の」はともにspjöllに一致させるため対格中性複数形になっています。

þau er以下は関係節です。manは動詞muna「記憶する」の一人称単数現在です。umは動詞の前に付く接辞ですが訳されることはありませんがその動詞の示す方向を表します。fremstはframastと同義で副詞 fram「前へ」の最上級です。þau er fremst um manは「私が最大限記憶してること」という意味になります。

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