世界樹は第2スタンザにすでに出てきていますが、その名前 Yggdrasill ユグドラシル(またはユッグドラシル)という名前はこの第19スタンザで出てきます。
テキスト
Ask veit ek standa, / heitir Yggdrasill
私はトネリコの木が立っているのを知っている、それはユッグドラシルと呼ばれている
hár baðmr, ausinn / hvítaauri;
高い木で 大地の白い泥をかぶっている
þaðan koma döggvar / þærs í dala falla;
そこから多くの雫が出てきて 谷深く落ちていく
stendr æ yfir grœnn / Urðar brunni.
青々としたその木は ウルズの泉の上にそびえて立っている
Poetic Edda – Völuspá 19
By FrostZERO – FrostZero, CC 表示-継承 3.0, Link
解説
Ask veit ek standa, / heitir Yggdrasill
主語はek「私」、動詞はveit、vita「知っている」の一人称単数現在です。その「知っている」内容は不定句でask、男性名詞askr「トネリコの木」の対格単数と動詞 standa「立っている」の不定形で「トネリコの木が立っていることを」を指しています。
askは人類の始祖のアスクと同じ単語ですがここでは実際の「木」の意味に使われています。
heitirはheitrのバリエーションで動詞 heita「〜と呼ばれる」「〜という名である」の三人称単数現在です。Yggdrasillは特別なトネリコの木の名前で形容詞 yggr「心配な」「恐ろしい」と男性名詞 drösull「馬」の複合語と言われています。意味としては「恐ろしい馬」あるいは「恐ろしい者の馬」などが考えられます。またYggrはオーディンの別名とも言われているので「オーディンの馬」とも解釈されています。なぜ馬なのかは諸説ありますし馬以外の由来を主張する説もあります。
本来はユッグドラシルの音に近いのですが日本語ではユグドラシルの方が定着しているようです。
hár baðmr, ausinn / hvítaauri;
hárは形容詞 hár「高い」の主格男性単数で次の主格単数の男性名詞 baðmr「木」 を修飾しています。
ausinnは動詞 ausa「(水分を)散らす」「(水分を)注ぐ」の過去分詞の主格男性単数でbaðmrを修飾しています。過去分詞は受動の意味になるのでこの「高い木」は何か水分を注がれていることになります。
ausaは注ぐ水分を与格でとりますがhvítaauriが与格単数であるためこれが何かの水分であることが推測できます。hvítaauriは形容詞hvítr「白い」と男性名詞 aurr「大地の湿気」「湿った粘土」「泥」の複合語です。
þaðan koma döggvar / þærs í dala falla;
þaðanは副詞「そこから」、komaは動詞koma「来る」の三人称複数現在です。döggvarは女性名詞 dögg「雫」の主格複数で主語になります。
þærsはおそらく þærのバリエーションで指示代名詞の主格女性複数でdöfggvarを指します。 íは前置詞で続く単語が与格の場合は「〜の中で」、対格の場合は「〜の中に」と意味が変わります。dalaは男性名詞 dalr「谷」の対格複数なのでí dalaは「谷の中に」の意味になります。fallaは動詞 fallaの三人称複数現在で「落ちる」の意味になります。英語のfallと同じ由来の言葉です。
stendr æ yfir grœnn / Urðar brunni.
stendrは動詞standa「立っている」の三人称単数現在で、æは副詞「ずっと」です。次の前置詞 yfir「〜の上に」は与格を取るのですが与格は文末のbrunniになります。男性名詞brunnr「泉」の与格単数です。
grœnnは形容詞「緑の」の主格男性単数でこの文の主語を修飾しています。主語はここには書かれていませんが上で言われたhár baðmr「高い木」のことです。
Urðarは属格でUrðrは三人いる運命の女神ノルンの一人です。
またstanda yfirで「〜の上にそびえ立つ」の意味になります。