アース神族とヴァン神族の戦争はヴァン神族の勝利で終わりました。アース神族はこの負け戦について協議します。
テキスト
Þá gengu regin öll / á rökstóla,
そして世界を治める力ある神々は 裁定の席へと赴いた
ginnheilug goð, / ok um þat gættusk;
そこで高貴な神々は 協議を行った
hverr hefði lopt allt / lævi blandit
誰がこのすべての大気を 毒と混ぜ合わせたか
eða ætt jötuns / Óðs mey gefna.
あるいは誰がヨトゥンの一族に オーズの妻を与えたのかを
Poetic Edda – Völuspá 25
By James Doyle Penrose (1862-1932) – Unknown, パブリック・ドメイン, Link
解説
Þá gengu regin öll / á rökstóla,
ginnheilug goð, / ok um þat gættusk:
神々が集まって協議をする様子を語るこの2行は第6、第9、第23スタンザで出てきておなじみになりました。今回はヴァン神族と戦争の戦後処理についてです。文法の説明は第6スタンザのページを見てください。
hverr hefði lopt allt / lævi blandit
hverrは代名詞「誰」の主格単数です。ここでは関節疑問文となり今回の議題になります。以下の内容を見ると負け戦の犯人探しのようです。
hefðiは動詞 hafa「持つ」「保つ」の接続法三人称単数過去です。接続法過去は過去の不確定の事柄をさすと思われます。またhafaはここでは使役動詞として使われ、目的語 loptと過去分詞 blanditを補語に取り「loptをblanditの状態にさせた」と解釈されます。
loptは中性名詞 lopt「大気」「上部の部屋」「バルコニー」の対格単数で英語のloftと同じ由来です。alltは形容詞 allr「全体の」の対格中性単数でloptと一致しています。
blanditは動詞 blanda「混ぜる」の過去分詞対格中性単数でloptを修飾しています。英語のblendと同じ由来です。この動詞は混ぜられるものを対格、混ぜ入れるものを与格でとります。læviは中性名詞 læ「毒」の与格単数です。
使役動詞の対象は「大気のすべてを毒と混ぜ合わせた」ことになります。誰かが毒とも言える不運なことをアース神族に持ち込んだと思われます。
eða ætt jötuns / Óðs mey gefna.
eðaは接続詞で「または」を意味します。
gefnaは動詞 gefa「与える」「贈る」の過去分詞対格女性単数で同じ対格単数の女性名詞 meyを修飾しています。
meyは女性名詞 mær「娘」「処女」の対格単数、 Óðsは固有名詞 Óðr オーズの属格です。オーズはヴァン神族の一柱です。形容詞でoðrという単語がありこちらは「狂気の」「怒った」「暴力的な」など意味があり必然的にオーズの印象につながります。
与える相手は与格で表されます。ættは女性名詞 ætt「家族」の与格単数で、jötunsはjötunnまたはjǫtunn「ヨトゥン巨人」の属格単数です。ここでは「ヨトゥン族にオーズの娘を与えた」ことになります。
別の文献によるとここで言われる「娘」とは北欧神話で重要な女神フレイヤのことだとされています。フレイヤはオーズの妻なのでmeyは「妻」と訳されるべきでしょう。どうも砦の外壁の建設にヨトゥンがからみ結果として外壁はうまくできなかったようです。これが前スタンザで語られた通りヴァン神族により打ち破られることになったのでした。