次に神々は人間を作ります。その創造について語られているのがこの第17スタンザと次の第18スタンザです。
テキスト
Unz þrír kvámu / ór því liði
三人がやってきた 彼らの一群から抜けて
öflgir ok ástkir / æsir at húsi,
力強く親愛な アース神たちが家に
そのとき
fundu á landi / lítt megandi
彼らはその土地で見出した 力の弱いものたちを
Ask ok Emblu / örlöglausa.
アスクとエンブラという運命に見放されたものたちを
Poetic Edda – Völuspá 17
By Robert Engels (1866-1920). – Herzog, Rudolf (1919). Germaniens Götter. Quelle & Meyer, Leipzig., パブリック・ドメイン, Link
解説
Unz þrír kvámu / ór því liði
unzは接続詞で英語のuntil「〜まで」に相当する語です。この語はundとesの複合語で「〜の状況下で」とも訳せます。 ここでは後者で訳しています。場所も文頭に置くと日本語では通じにくいので中途半端ですが次の行にもってきました。þrírは主格男性の「3」です。kvámuはkoma「来る」の三人称複数過去です。
órは前置詞「〜から外へ」の意味で与格を取ります。því liðiは与格で「その群衆」の意味です。
öflgir ok ástkir / æsir at húsi,
öflgirは形容詞ǫflugrまたはöflugr「力強い」の 主格男性複数、ástkirはástgirとも書き形容詞ástigr「親愛な」の主格男性複数で共に次に来るæsirを修飾しています。
æsirは男性名詞 áss「アース神族」の主格複数で主語になります。atは前置詞「」で与格を取ります。húsiは中性名詞 hús「家」の与格単数です。英語のhouseと同じ由来の言葉ですがこの家がどこを表しているのかはここからは読み取れません。
fundu á landi / lítt megandi
funduは動詞 finna「見つける」の三人称複数過去で英語のfind、foundと同じ由来です。áは与格を取る前置詞で「〜で」「〜の中で」を意味します。landiは中性名詞 land「土地」の与格です。
líttは副詞で「少し」の意味です。英語のlittleと同じ由来です。megandiは動詞 mega「許されている」「強さを持っている」の現在分詞でlítt megandiで「弱っている」の意味になります。このmegaは英語のmayやドイツ語のmögenと同じ由来です。
Ask ok Emblu / örlöglausa.
AskとEmbluは両方固有名詞で男性名 Askrと女性名 Emblaの対格です。Askrは英語のash treeで「トネリコ属の木」を意味します。 Emblaも何らかの木に由来していると推測されています。世界樹ユグドラシルからもわかるようにノース人には木と生命の源は不可分のものであったと考えられます。
örlöglausaは中性名詞 örlög「宿命」「運命」と形容詞 lauss「〜ない」「見放された」の複合語で対格男性複数、この二人を修飾しています。ドイツ語の複合語でも-losというものがよくありますがこれと同じタイプの複合語になります。
三人のアース神族の一人は次で明らかになりますがオーディンです。『スノッリのエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」ではオーディンが人間を創造したとありますが、ここではオーディンたちが見つけた力の無い木を人間に見立てたと解釈できます。