第2スタンザには巨人のヨトゥン族と世界樹についての言及があります。
テキスト
Ek man jötna / ár um borna,
私は覚えている、巨人のヨトゥン族を 彼らが古代に生まれた時のことを
þá er forðum / mik fœdda höfðu;
その昔 私を育てた彼らのことを
níu man ek heima, / níu íviðjur,
私は覚えている、九つの世界を、木に宿る九つの彼女らを
mjötvið mæran / fyr mold neðan.
栄光ある世界樹を それは大地に深く根ざしていた
Poetic Edda – Völuspá 2
By Friedrich Wilhelm Heine (1845-1921). – Wägner, Wilhelm (1886). Asgard and the gods. London: Swan Sonnenschein, Le Bas & Lowrey. Page 27., Public Domain, Link
解説
Ek man jötna / ár um borna,
jötnaは男性名詞jötunnの対格複数、ek man +対格で「私は〜を覚えている」となります。このヨトゥンは「巨人」「巨人族」を意味するのですが巨人は北欧神話にはヨトゥン以外にも出てくるためそのまま訳すのが適当のようです。
árは副詞で「太古の時代に」という意味になります。umは前置詞で「〜あたりの」を意味します。この前置詞はドイツ語にも存在します。umは対格を取りbornaはborinn「生まれた」の対格男性複数でヨトゥン族のことを指します。borinnは過去分詞で元の動詞はbera「産む」です。これは英語の動詞bearと過去分詞bornと同じ関係になります。
þá er forðum / mik fœdda höfðu;
þá er以下は関係節で巨人の説明になります。forðumは副詞で「以前に」、höfðuは動詞hafaの三人称複数過去です。hafaは英語のhaveに相当していろいろないみを持ちます。mik fœddaは解析が難しいのですがおそらく対格の分詞構文です。この場合、mikは対格「私を」、fœddaは動詞fœða 「養う」の過去分詞fœddrの対格女性単数です。mik fœdda hafaは「私を養われた状態にする」と訳せます。
níu man ek heima, / níu íviðjur,
ek man「私は覚えている」は繰り返し使われています。heimaはheimr「世界」の対格複数でníu heimaは「九つの世界を」となります。íviðjurはíviðjaの対格複数で「女の巨人」と訳されますがここではその成り立ちのí-viðr「木のそばあるいは中にあるもの」という意味で捉えるとníu íviðurは「九つの木に含まれるもの」となり「九つの世界」の言い換えであることがわかります。
mjötvið mæran / fyr mold neðan.
対格単数mjötviðは中性名詞mjöt「正規なもの」「正当なもの」と男性名詞viðr「木」の複合語です。複合語の場合あとの名詞の性を受け継ぐのでmjötviðrは男性名詞となります。続くmæranも形容詞mærr「栄光ある」の対格男性単数でmjötviðと格性数が一致しています。
mjötviðrはYggdrasillと同義とされていて世界の中心にある木のことです。日本語では「世界樹」とか「宇宙樹」と訳されます。
fyrは前置詞 fyrirの省略形で「〜の前に」「〜に対して」を意味します。moldは対格単数で「大地を」、neðanは副詞で「下に」を意味します。fyr mod neðanは「大地の下に対して」という意味で動詞は含まれていないのですが「根を張っている」表現のようです。