古エッダ:巫女の予言について(1)

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古エッダに『巫女の予言』Völuspáという話があります。古エッダは詩の形式でもあるので物語であると同時に詩でもあります。北欧神話の神々の物語がまとめられたものです。この物語が成立する前にはこの内容について語られているものがすでに存在していたと考えられています。

『巫女の予言』の位置付け

この物語は北欧神話を知る上で最初にも最後にも読むべきものとされています。最初というのは神々についてよくまとまっているので他の物語に先駆けて概要をつかむのに適しているからで、最後というのは関連する他の物語を読んだあとでないと詳細が理解できない部分があるからです。

それでも全編を理解するのは難しいと言われています。一つの理由としては関連する物語が失われているために詳細がわからないということ、他の理由としては神話そのものが不条理な内容を含んでいるため現代の常識では理解が難しいということが挙げられます。

物語それ自体は大変美的に洗練されていますし、世界の不思議を掴み取ろうとする気概さえ垣間見えます。古代ノース人はこの世界を遊び場というより努力や自然との戦いが必要な厳しい場所と見ていたようです。神々や巨人たちの血なまぐさい戦いもその感性から出たものと言えます。また神秘的なものや超自然的なものは特別なものではなく日常のすぐ隣に置かれていました。氷や雪に閉ざされた孤独や薄暗いぼんやりとした霧に囲まれた日常の中で唯一光るものは想像力のオーロラのような輝きだったのです。

日本語で巫女と訳されているVölva、英語でValaと言われる女性は放浪の預言者で家々を回っては占いや失せ物探しをしていました。このような能力は珍しいものではなく多くのサガに登場する女性に多く見受けられますがここに出てくる巫女は世界の全ての人に関わる歴史や運命について語ります。

アース族とヴァン族の戦争まで

Æsir-Vanir war by Frølich.jpg
槍を投げるオーディン(By Lorenz Frølich – Published in Gjellerup, Karl (1895). Den ældre Eddas Gudesange, p. 7. Photographed from a 2001 reprint by User:Haukurth., Public Domain, Link)

物語は世界の始まりから入ります。まだ天と地のできる前の混沌の世界で北の雪と氷、南の炎と熱に挟まれて大きな裂け目があったと言われます。最初の巨人ユミルYmirはそこで生まれます。ユミルからは多くの巨人Jötunが生まれます。そして神々が生まれます。巨人たちを制圧した神々は自分たちとエルフ族、ドワーフ族、巨人族、そして人類のために秩序ある世界を作ります。生者のための英語でMidgarthと言われる地上の世界、死者のためのHelと言われる世界が世界樹Yggdrasilと言われる大きな木の周りに作られます。この世界樹についての由来については巨人は何も語りません。

太陽と月と星々が天に置かれ植物が育ちドワーフが地下で様々な宝物を作り出すようになった後人間が生まれました。風の神オーディンによって息を吹き込まれ知恵の神ヘーニルHœnirによって理解する心を与えられ炎の神ロキLokiによって血を与えられました。

しばらく続く黄金時代のあと暗い影が世界を包みます。巨人の世界Jötunheimから3人の巨人の娘がやってきて世界樹に腰をおろします。彼女たちは巨人JötunですがNornとも呼ばれ後のWeirdと呼ばれる運命を司る魔女の原型のようなものと今では理解されています。このような存在はゲルマン系の民族の間ではよく知られたくさんの物語の中のいたるところに出て来ます。

彼女たちの登場後に神々の戦争が起こります。神々には種族があり一方がヴァン族Wanes、他方がアース族Æsirと言います。この戦いは長く続きアース族の世界、アスガルズAsgarthも破壊されてしまいます。和平が提案され両者から指導者をだし交換することになりました。アース族からはヘーニル、ミーミル Mímirが、ヴァン族からはニョルドNjördとその子供達フレイFreyとフレイヤFreyja、クヴァシルKvasirが交換に出されました。フレイヤは夏の女神とされて金曜日Friday「フレイヤの日」の語源でもあります。

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