北欧神話の主神オーディン、またはオージンは隻眼で知られています。もう一つの目はどこかに隠されていることがこの第28スタンザで語られています。このスタンザは長いので二つに分けます。
テキスト
Ein sat hon úti, / þá er inn aldni kom
彼女は一人で家の外に座っていた そこにあの老人がやってきた
yggjungr ása / ok í augu leit.
アース神族のユッグユングは そして彼女の両目を覗き込んだ
Hvers fregnið mik? / hví freistið mín?
(彼女は言った)
何を私に尋ねるのだ? なぜ私にそれを試みるのだ?
Poetic Edda – Völuspá 28
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解説
Ein sat hon úti, / þá er inn aldni kom
satは動詞 sitja「座る」「座っている」の三人称単数過去でhon satは「彼女は座っていた」となります。einは数詞 1の主格女性単数で主語にかかりますがここでは副詞のように「ひとりで」と訳すとわかりやすいでしょう。 útiは副詞で「ドアの外で」という意味です。
þá er以下は関係節で「〜の場所に」となりますが時間の流れとしては主節の後に関係節の出来事が起こるため並置で「そこに」という形で訳します。主格男性単数の定冠詞inn、aldniは形容詞 aldninn「年取った」の主格男性単数の弱変化です。定冠詞付きの形容詞は実体化して人やものになり、この場合男性形なので「その老人は」となります。komは動詞koma「来る」の三人称単数過去です。
yggjungr ása / ok í augu leit.
yggjungrは男性名詞で「賢いもの」の意味とされ、オーディンの別名の一つです。ásaは男性名詞 áss「アース神」の複数属格です。
auguは中性名詞 auga「目」の複数対格で、前置詞 íと一緒に「両目の中へ」となります。leitは動詞 lita「色付ける」の三人称単数過去です。「両目の中へ色付ける」というと意味がわかりませんが英訳をいくつか調べるとlitaには英語の動詞 gaze「凝視する」を当てていました。
Hvers fregnið mik? / hví freistið mín?
hversは疑問代名詞の属格で fregniðは動詞 fregna「聞く」の二人称複数現在で、mikは「私」の対格です。 「私から聞きたい内容」を訪ねていることになります。
hvíは疑問副詞「なぜ」、freistiðは動詞 freista「試す」の二人称複数現在、mínは「私」の属格です。
この行から後は戸外に座っていた女性がオーディンに質問を投げかけている時のセリフです。二人称複数の動詞を使っているのはオーディンだけでなくアース神族全体に対しての疑問だと思われます。以下次回に続きます。