巫女の予言(24)神々の最初の戦い

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第24スタンザで二つの神々の種族、アース神族とヴァン神族との間で戦争が始まります。英語ではÆsir–Vanir War と呼ばれています。おそらく過去に実際にあった民族同士の戦いが話の元になっているのではないかと言われています。

テキスト

Fleygði Óðinn / ok í fólk um skaut,

オーディンが武器を飛ばし 敵の群れの中に投げ入れた

þat var enn fólkvíg / fyrst í heimi;

それは大きな戦だった この世界の中で知る限り最初の

brotinn var borðveggr / borgar ása,

外壁が破られた エーシルの砦の外壁が

knáttu vanir vígspá / völlu sporna.

ヴァニルは戦の予言の通り 平原を踏みしめることができた

Poetic Edda – Völuspá 24

Æsir-Vanir war by Frølich.jpg
By Lorenz Frølich – Published in Gjellerup, Karl (1895). Den ældre Eddas Gudesange, p. 7. Photographed from a 2001 reprint by User:Haukurth., Public Domain, Link

解説

Fleygði Óðinn / ok í fólk um skaut,

fleygðiは動詞 fleygja「飛ばす」の三人称単数過去です。ここでは目的語がないのですがおそらく槍のようなものを投げたのではないかと考えられます。主語はÓðinn オーディンです。

okは接続詞で英語のandにあたります。主語は引き続きオーディンです。skautは動詞 skjóta「投げる」の三人称単数過去で 接辞 umを伴うと完了した動作を表します。 前置詞 íは対格をとると「〜の中へ」という動きのある意味になります。ここでは中性名詞 fólk 「群衆」が対格になります。オーディンがアース神族なのでこの群衆はヴァン神族を指します。

þat var enn fólkvíg / fyrst í heimi;

þat varは英語のit wasに相当します。fólkvígは中性名詞 fólk「民衆」「群衆」と中性名詞 víg「争い」「殺人」の複合語で「戦争」を意味します。vígだけでも戦争の意味はあるのですがfólkとつながることで「多くの人を巻き込む」意味を出しています。

ennは副詞でyetに相当します。形容詞fyrst「最初の」と一緒に「今までのところ最初の」の意味になります。前置詞 íは与格を取ると「〜の中で」の意味になります。heimiは男性名詞 heimr「住居」「世界」の与格単数です。

brotinn var borðveggr / borgar ása,

brotinnはbrjóta 「壊す」の過去分詞主格男性単数です。古ノルド語の過去分詞は形容詞と同じく格性数で変化し受け身の意味を持ちます。この場合「壊された」の意味になり男性名詞を修飾しています。borðveggrは男性名詞の主格単数でこのbrotinnと一致します。borðveggrは中性名詞 borð「板」と男性名詞 veggr「壁」の複合語で「陣地の外壁」を意味していると思われます。 複合語の性は後ろの単語の性を引き継ぐのでveggrの男性がborðveggrに引き継がれます。

borgarは女性名詞borg「街」「城」「砦」の属格単数、ásaは áss「アース神」の複数属格で属格が二段重なっています。borðveggr borgar ásaは「アース神たちの砦の外壁」の意味になります。

アース神 ássは単数ではアースと読みますが複数になるとæsirとなりエーシルと読みます。同様にヴァン神 vanrも複数ではvanir ヴァニルと音が変わります。英語の複数形にsがつくのはフランス語の影響でゲルマン語族の複数形では語尾そのものが変わります。英単語でも複数でsがつかないman-menやchild-childrenはゲルマン語由来だとわかります。

knáttu vanir vígspá / völlu sporna.

knáttuは動詞 kná「〜できる」の三人称複数過去で不定動詞を補語にとります。不定動詞sporna「踏みつける」がこれにあたります。主語はvanir ヴァン神の主格複数です。

völluは男性名詞 völlrまたはvǫllr「平原」の対格単数でspornaの目的語になります。vígspáは女性名詞 víg「争い」「戦争」と女性名詞 spá「予言」 の複合語で与格と考えられます。vígspáは未確認ですが「勝利の祝いの言葉」「勝どき」の意味もあるとのことです。spáはこの『巫女の予言』völuspáにも含まれる重要な単語なので予言のままにしました。ここでは戦争を行うときに行った予言が成就したと解釈しています。

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