巫女の予言(3)巨人ユミルとギヌンガガプ

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第3スタンザには原初の巨人ユミルとギヌンガガプと呼ばれる大きな裂け目について語られています。

テキスト

Ár var alda / þar er Ymir bygði,

その昔、巨人ユミルが生きていた時代のこと

vara sandr né sær / né svalar unnir,

砂も海も また冷たい波もなかった

jörð fannsk æva / né upphiminn,

大地は未だ見られず 天空もまた同様だった

gap var ginnunga, / en gras hvergi.

ただギヌンガガプという裂け目があったが草はどこにも生えていなかった

Poetic Edda – Völuspá 3

Groa och Heid.JPG
By Carl Larsson (1853-1919) and Gunnar Forssell (1859-1903) as described. – The image is found on page 3 of Fredrik Sander’s 1893 edition of the Poetic Edda; Edda Sämund den vises : skaldeverk af fornnordiska myt- och hjältesånger om de götiska eller germaniska folkens gamla gudatro, sagominnen och vandringar / öfversättning från isländskan af Fredrik Sander ; med bilder af nordiska konstnärer. Stockholm, Norstedt. I (Haukur Þorgeirsson) took a picture of that page with a handheld camera.
Photograph by User:Haukurth., Public Domain, Link

解説

Ár var alda / þar er Ymir bygði,

varは動詞veraの三人称単数過去です。veraは英語のbe動詞にあたり「〜である」という意味以外に「〜が存在する」という意味にもなります。árは副詞「古代に」、aldaは「時代」を意味する女性名詞öld, ǫld「時代」の属格複数です。属格はveraと組み合わさると「〜の人、物、事がある」という表現になります。

þar er以下は関係節です。þarは先行副詞で場所や時を指しこの場合はaldaに係ります。Ymirは原初の巨人ユミルのことで種族ではなく固有名詞です。Ýmirと書かれることもありこの場合はユーミルと発音します。bygðiは動詞byggja「住む」「生活する」の三人称単数過去です。alda þar er Ymir bygðiで「ユミルが生きていた時代の出来事」と訳せます。

vara sandr né sær / né svalar unnir,

varaは動詞veraの三人称単数過去varのバリエーションで否定文で出てきます。néは否定の接続詞で英語のnorに対応します。「〜も〜も〜もなかった」という構文になります。

sandr「砂」、sær「海」はともに男性名詞の主格単数です。それぞれ英語のsandとseaに対応しています。unnirはunnarのバリエーションで女性名詞unnr「波」の主格複数です。ラテン語では「波」は女性名詞undaという単語があり、同じ印欧語の語幹があると想定されています。savalarは形容詞svalr「冷たい」の主格女性複数でunnirに格性数で一致しています。

jörð fannsk æva / né upphiminn,

jörðは主格単数で「大地」「地球」の意味になります。ドイツ語のErdeと同じ由来の言葉です。fannskは動詞finna「見つける」の中動態です。中動態はその動作の対象が動作主に一致する表現です。「自分自身を見つける」から「存在する」の意味になります。ævaが「全く〜ない」という意味の副詞なのでjörð fannsk ævaは「大地は全く存在しなかった」という意味になります。フランス語の再帰動詞se trouverも「自分自身を見つける」という表現ですが意味は「位置する」となります。フランス語には中動態はないのですが再帰動詞がそのかわりをします。

upphiminnは副詞 upp「上へ」と男性名詞 himinn「空」「天国」との複合語です。ドイツ語の男性名詞Himmelと同じ由来の言葉です。

gap var ginnunga, / en gras hvergi.

ginnungaは適切な訳がありません。英語ではyawning「あくびをしている」やgaping「ぽかんと口を開けた」などの動作を意味として当てることがありますが確かな根拠はありません。gapは英語と同じく「裂け目」の意味でvoid「空虚」やabyss「深淵」とも訳されることがあります。この原初の裂け目のことはginnungaとgapを連結してginnungagap ギヌンガガプと一般に呼ばれています。

enは反対の表現を期待する接続語で英語のbutに相当します。grasは「草」を意味する中性名詞でhvergiは「どこにもない」という意味を表す副詞です。hvergiは英語のnowhereに相当します。

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