古代の画家アペレス(5)人を認めること

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アペレスは自分の素養や技術を過信することなく人の良いところは素直に認めていたようです。

fuit autem non minoris simplicitatis quam artis.

また彼にはその技術に劣らない率直さがあった。

fuitは動詞sumの三人称単数完了、autemは接続詞「また」「しかし」、minorisは「劣る」の属格で性質や品質を表します。nonがつき「劣らない」つまり「同じくらい」となります。simplicitatisは女性名詞 simplicitas 「単純さ」「率直さ」の属格です。比較対象はquam artis「技術と比べて」となります。このartisも属格です。

Melanthio dispositione cedebat, Asclepiodoro de mensuris, hoc est quanto quid a quoque distare deberet.

彼はメランティウスには構成で譲り、アスクレピオドルスには物の尺度で譲っていた。この尺度とはあるものが他のものからどのくらい離れているかを表現することである。

cedebatは動詞 cedo「譲る」の半過去で譲る相手は与格で表します。MelanthioはMelanthius 同時代の画家メランティウスの与格、AsclepiodoroはAsclepiodorusアスクレピオドルスの与格です。奪格で譲る内容を表します。dispositioneは女性名詞 dispositio「配置」「構成」の奪格単数、mensurisは女性名詞 mensura「尺度」の奪格複数です。

この尺度についてはさらにhoc est 「これは〜である」と説明があり、quantoは副詞「どのくらい」、quidは主格中性単数「あるものが」、a quoque「あるものから」、動詞の不定法「離れていること」、deberetは動詞 debeo「堅持する」の半過去接続法です。quanto以下で「あるものが他のものからどのくらい離れていることを保っているか」という意味になります。これは現代の遠近法に相当するものと言われています。

メランティウスについては『博物誌』には詳しい記述はありません。同じ第35巻の76節にはシキュオン Σικυών / Sicyonという街のPamphilius パンピリウスという画家にアペレスとメランティウスは師事したと書かれています。授業料は年間500ドラクマでした。最近の歴史家の計算では古代の1ドラクマはおよそ3000円から5000円ほどの価値があるとのことから計算すると年間150万円から250万円を納めていたことになります。おそらく住み込みであることを考えると現代の美術大学と費用は変わらなそうです。

またアスクレピオドルスについては107節に記述があります。彼の12柱の神々(おそらくオリュンポスの12神)を書いた絵に対して為政者が神1柱につき300ミナの地金を払ったとあります。1ミナはおよそ100ドラクマなので12 × 300 × 100で36万ドラクマ、1ドラクマ3000円で見積もっても10億8千万円という巨額の金を手に入れています。

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