古代の画家アペレス(16)パンカスペ2

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自分の愛人に画家アペレスが恋をしたと知ったアレクサンドロス大王はどのように振る舞うのでしょうか。

dono dedit ei, magnus animo, maior imperio sui nec minor hoc facto quam victoria alia, quia ipse se vicit, nec torum tantum suum, sed etiam adfectum donavit artifici, ne dilectae quidem respectu motus, [cum modo regis ea fuisset, modo pictoris esset].

彼アレクサンドロス大王は自分の愛人パンカスペをアペレスに与えた、彼はその魂によって偉大であり、彼の統治による偉大さにもそれは勝り、この事実は彼の他の勝利に劣ることはない、なぜなら彼は自分自身に勝利したからだ、彼のいわゆる寝床の相手ではなく彼の友情を画家に与えたのだ、一度は王のものであったのに今は画家のものになったときに彼女が持ったであろう想いに動かされることなく。

donoは中性名詞 donum「贈り物」奪格単数、deditは動詞 do「与える」の三人称単数完了、
eiは代名詞で「彼に」つまりアペレスに、贈り物として与えられたのは愛人ですdono dedit eiは「アレクサンドロス大王は贈り物としてパンカスペをアペレスに贈った」という意味になります。最愛の愛人を譲るのですからアペレスの信頼は相当なものです。

magnusは形容詞「偉大な」の主格男性単数で主語のアレクサンドロス大王を修飾しています。animoは奪格で「魂において」でmagnus animoは「魂において偉大な男性」を意味します。maiorはmajorとも書きmagnusの比較級、imperioは中性名詞 imperium「支配」の奪格単数で比較対象になります。suiは属格で「彼の」となるのでmaior imperio suiは「彼の支配より偉大な」という意味で最初の「魂の偉大さ」が「政治的な支配の偉大さ」より勝るといっています。nec minorは「そして劣らない」、hoc factoは奪格で「この事実において」、quam以下が比較対象でvictoria aliaは奪格女性単数で「他の勝利」、つまり戦争の勝利による領土の拡大を指しています。

quiaは理由を表す接続詞「なぜなら」、ipseは主格で「彼自身」、vicitはvinco「勝つ」の三人称単数完了、勝った相手はseつまり自分自身です。プリニウスは人に勝つことよりも自分自身に勝つことの方が偉大であると評価しています。

次のnec…sed etiam…は「〜でなく〜である」という表現です。中心になる動詞はdonavitでdono「贈答する」の三人称単数完了です。目的語はtorumはtorus「筋肉」「膨らんだもの」「クッション」の対格ですがその意味するものは「寝床を共にする愛人」です。 tantumは「そのような」、suumは「彼の」で共にtorumを修飾しています。adfectumはaffectusの対格で「愛情」「友情」です。artificiは与格で「芸術家に」となりアレクサンドロス大王は単に愛人を画家に与えたのではなく彼の親愛の情を与えたといっています。

ne motusは「動かされることなく」で動かされうるものは奪格でrespectu「考え」、属格dilectae「愛人の」で修飾されdilectae respectuで「愛人の考えによって」となります。quidemは副詞で「確かに」「事実上の」で愛人がアレクサンドロス大王の決定に何がしかの意見を持っていることが伺えます。cum以下で理由や状況が説明されています。modo regisは奪格と属格で「王の裁量によって」、主語はea 「彼女は」、動詞はsumの接続法過去完了fuissetで「〜であった」、modo pictorisも同様に「画家の最良によって」で動詞は同じsumの変化ですが半過去でこの出来事のあったときの現在を表しています。つまり前には王のものであった彼女はその出来事のあと画家のものになったということです。

ここではアレクサンドロス大王は愛人の気持ちに左右されることなく友情を大事にしたので偉大という文脈です。現代の感覚でいうと「ではモノのように譲られた愛人の気持ちは無視して良いのか」と言いたくもなります。しかし彼女の気持ちがどうであれアペレスがパンカスペを引き受けることになり後代への多大な影響が見られます。

短い一文ですが次で見ます。

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